2021年12月8日水曜日

平凡社版『江戸川亂歩全集』内容見本のこと

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〈A〉                   〈B〉




「昔の出版人は同一の本なのにどうして装幀をコロコロ変えたりしたのだろう?」という素朴な疑問を先日の記事にて発した。そのクエスチョンは本以外のアイテムにもあてはまったりする。


      


江戸川乱歩初の全集は昭和65月より平凡社によって配本が開始された。ふつう全集というものが刊行される際には、収録を予定している内容を世間にお知らせするため、〈内容見本〉が版元より配布される。今回の題材である平凡社版『江戸川亂歩全集』にも当然〈内容見本〉は存在していて乱歩の著書でも触れられているように、そこに寄稿された「江戸川亂歩氏の探偵小説は阿片の妖氣である。一度これを呼吸したが最後、生涯治癒する事なき亂歩患者になってしまふ。」てな調子で始まる横溝正史入魂の文章は、つとに有名。





『貼雑年譜』にもスクラップされており、一般的に知られている平凡社版『江戸川亂歩全集』の〈内容見本〉は、今ご覧の記事上部にUPしている左側の画像(黒地のもの)がそれだ。表紙絵は岩田専太郎の仕事であることが『貼雑年譜』内に乱歩自らの手で書き込まれている。この〈内容見本〉ノーマル・ヴァージョン(?)のほうを便宜上〈A〉と呼ばせてもらう。



それとは異なる装幀を施された〈内容見本〉が平凡社版『江戸川亂歩全集』には存在する。同じく岩田専太郎による表紙絵なのだが、平凡社版『亂歩全集』に附録として封入された小冊子『探偵趣味』の第一號をまんま流用したデザインで、江戸川亂歩全集附録『探偵趣味』別冊と題しながら中身は〈内容見本〉なのだから実にまぎらわしい。やはり上部にUPした右側の画像、こちらの異装〈内容見本〉は〈B〉と呼ぼう。
参考までに〈B〉に流用された『探偵趣味』第一號の表紙はこれ ☟) 



          『探偵趣味』第一號表紙も岩田専太郎画伯の仕事



所詮は〈内容見本〉だし、〈A〉〈B〉とで中身が大きく異なる訳ではないけれど、〈B〉に掲載されている内容を記しておく。


 

 懸賞犯人探し

『探偵趣味』に毎回連載される長篇「地獄風景」犯人当てについての応募要項。
『探偵趣味』に載っていた文章の流用だが、応募宛先が〈B〉では記されていない。




 上記で述べた横溝正史による全集の総覧並びに各巻表題作についての売り文句、加えて各巻収録予定作品紹介。〈A〉とは文章の組み方が違っているので、
(☟ )に見られる〈B〉の中身と〈A〉をスクラップした『貼雑年譜』とを見比べられたし。



 










 「地獄風景」連載第一回のサンプル/一頁相当

〝「サア、用意は出来て?飛込むわよ。」〟から〝岸には見物の男女が、
これも裸體の肩を組み、手を握り合って、笑ひ興じながらこの有様を眺めてゐる。〟
までの部分が載っている。これも上の画像を見よ。


 

 世界探偵小説傑作選集 盲點 (佛)ルヴエル原作

やはり『探偵趣味』第一号からそのまんま転載。四頁相当。




 全集附録『探偵趣味』の紹介

 第一回配本『魔術師』(第八巻)の紹介



●  全集の編輯について  亂歩/一頁相当

全集刊行について乱歩からのコメント。これまた『探偵趣味』第一号から転載。




●  江戸川亂歩全集を推奨す 刑事犯罪學の立場から  前警視總監 丸山鶴吉
●  掌篇探偵小説 + 読者欄投稿募集要項






(銀) 同じ岩田専太郎の描く黄金仮面(?)であっても、その表情をよくよく見ると、ノーマル・ヴァージョン〈内容見本〉の〈A〉と『探偵趣味』第一號表紙及び〈B〉に描かれたものとではそれぞれ微妙に異なっていて、別々の絵である事がわかる。『探偵趣味』編集担当は井上勝喜だったから、〈内容見本〉の制作も彼が手掛けた可能性は高い。




本にしろ内容見本にしろ、同じものを平気で異装にしてしまう出版社の姿勢は「なんだがアバウトで一貫性がないなァ」とも受け取れるけれども、その反面「昔の社会はのんびりしてて豊かだったんだな」と羨ましくも感じる。