そんな感じで「真田十勇士」コミカライズ企画が始まったとみても不自然ではなかろう。
すがやみつるの『真田十勇士』を読むと、皮肉にも柴田錬三郎原作の良いところと悪いところがより浮き彫りになってくる。「新八犬伝」にはそれぞれの犬士ごとにわりかし知名度のあるエピソード(例えば女田楽師に化けた犬阪毛野が果たす父の仇討ち等々)があって、物語全体の流れもなんとなく掴みやすい。しかし「真田十勇士」は真田家の流転/豊臣vs徳川の睨み合いこそすぐ頭に浮かぶわりに、十勇士ひとりひとり大衆によく知られているエピソードが無い。「猿飛佐助の活躍譚って何だっけ?」と訊かれてハッキリ答えられる人がどれぐらいいるだろうか。
そういった弱点に加え、「真田十勇士」は当時の人形劇映像が「新八犬伝」以上に残っていないから尚更苦しい。その結果、読者が十勇士個々の印象的なエピソードを想起しにくいため、(前回の記事で紹介したノベライズ本『真田十勇士』にもやや同じ印象を感じたのだが)特にすがや版『真田十勇士』は話が超特急すぎてシバレンが人形劇のために創作したストーリーの味わいがガッツリと出しきれてないような感触が残るのだ。コミカライズなんてどれもそんなもんだし、まして本書はターゲットが小学生なんだから、改めて指摘するほどでもないんだけどね。
逆にマンガ版の良いところは、華やかさをグッと抑えて作られた辻村ジュサブローの人形に寄せることなくPOPに全キャラクターがデザインされているので、人形劇だと忍者にしては神経質そうで明るさが感じられなかった佐助が本書ではいかにも主役らしくハジけて描かれている点かな。作品全体を俯瞰するとシリアス6:コメディ4。巻頭ページがカラーだったりカバー裏面にも見る箇所があったり、子供向けにしてはよく出来ている本だと昔は思った。
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ノベライズ本『真田十勇士』が一度だけでも集英社文庫より復刊されたその陰で、すがやみつる『真田十勇士』は意外にその存在を知られてないのか、カルトな需要に留まっているようにも見える。古書市場に全八冊セットで出ると結構な値が付いてしまうし、だから私は(たとえノスタルジー込みであっても)復刻を望んでいたのに・・・。ここまで来てしまうと、もう再発は実現しなさそう。
これも想像にすぎないが、十勇士というだけあって、本来学研サイドはすがやみつる『真田十勇士』を全十巻で完結させたかったのでは?日本放送出版協会版ノベライズ本が全六巻のところ全五巻で終わってしまった影響はこちらにもありそうで、本作の終盤はとんでもなく駆け足に終わる。真田家全滅ではいくらなんでも悲惨すぎるとNHKが危惧したか、人形劇では佐助たちが豊臣秀頼を蝦夷地(北海道)に逃がして終わるけれど、あの中途半端な終わり方も良くなかった。