TVで人形劇になった「真田十勇士」を当時の私はこんな風に観ていた。
〝悪くないんだけど、『新八犬伝』に比べると音楽(メイン・テーマ/挿入歌含む)も人形たちの表情も語り手のノリも渋すぎるし地味になっちゃったなあ。主人公・猿飛佐助の性格からしてナイーブというか内向きだし。〟
〝八犬士が仕える里見義実は名君なのに、真田幸村と十勇士が命を捧げる豊臣家の実質的な主であるオバハン(秀吉が死んだあとの物語終盤、このポジションに来るのは淀君)はヒステリーなだけで、秀頼は幼過ぎてとても徳川家康には太刀打ちできん。こんな豊臣家に忠誠を誓ったってバッド・エンディングにしかならないじゃん。〟
愚かな主(淀君)のために徳川家と戦うなんて、あの頃番組を観ていた子供達には共感を得にくかったんじゃないの?最後に勝つのは悪(=徳川)なのだから。
「新八犬伝」は最初から馬琴の原作を石山透がすべて再構築して脚本を手掛け、前に紹介したノベライズ本『新八犬伝』(下の関連記事リンクを見よ)では坂本九・名調子の下支えである石山透の脚本を損なわないよう、重金碩之がうまいこと文章に置き換えていた。でも「真田十勇士」の場合、この記事で取り上げているノベライズ本の作者は柴田錬三郎になってはいるが、彼は番組の脚本まではタッチしていない。ノベライズ本『真田十勇士』には前述の重金碩之のような代筆者がいたなんて情報こそ無いけど、シバレン自ら執筆したかどうか100%は信用できぬ。もっともこの記事の左上にある書影を見てもらうと〝私が書き下したこの本によって、ストーリーが展開しているのです。 柴田錬三郎〟なんてキャッチ・コピーが帯に刷り込まれており、微妙なことこの上ない。
ノベライズ本『真田十勇士』は平成28年に集英社文庫から復刊されたとはいえ、カバー表紙に辻村ジュサブローの人形写真をまったく使っておらず、当時の視聴者がすぐに気付くほど目に留まるような装幀ではなかったため、実にマズい再発だった。翌平成29年角川文庫から出た再々々発のノベライズ本『新八犬伝』は一応買ったが、集英社文庫版『真田十勇士』はあまりにも売り方がお粗末ゆえ買う気が起こらず。だからこの記事で紹介しているのは元本の日本放送出版協会版なのである。
日本放送出版協会版『真田十勇士』全五巻のほうなら手放しで褒められるかと言えばそうでもなく、日本放送出版協会版『新八犬伝』は挿絵の代わりに番組劇中のスチール写真をふんだんに文中に取り入れていたので、のちのちヴィジュアル面で記憶を辿るのに非常に役立った。それが『真田十勇士』になると、巻頭口絵として劇中のカラー写真を4ページ載せてはいるものの、文中の図版はジュサブロー氏の手になる簡素な挿絵に変更されてしまっている。う~、コレじゃないんだよ。図版の見せ方はノベライズ本『新八犬伝』を踏襲してほしかったのに。
いま手元にある当時刊行された日本放送出版協会版『真田十勇士』帯の広告文を見ると、【全六巻】と印刷されている巻もある(これも記事左上の書影を見よ)。全六巻?てことは実際五巻で完結してるから一冊早めに打ち切ったのか?このあたりの事情も池田憲章が健在だったら明らかにしてくれたかもしれないのだが、どういう理由によるものなのか私にはわからない。番組そのものは別に打ち切りで終わってはいないもんね。
(銀) 当時リリースされた連続人形劇「真田十勇士」公式本と呼べるものはここで紹介した日本放送出版協会版ノベライズ本全五巻/人形を接写した写真集『辻村ジュサブロー作品集 真田十勇士』に加えて学研から発売されたコミカライズ本(マンガ)がある。そちらも本日まとめてお見せするべく予定していたが、Blogを書いている時間がなくなってしまったので次回に繰り延べ。本日これまで。
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