もっと詳しく言えば全464話を一字一句ノベライズ化できるはずもなく、本書のために全体の主要な流れを編集・執筆したのは重金碩之だ。文中には辻村ジュサブロー手掛ける妖美な人形の(今となっては非常に貴重な)スチールカットが挿絵として挿入。今回の復刊に際し、カバーと三巻セット売り収納函のデザインは一新。
『椿説弓張月』など曲亭馬琴の他の作品のエピソードを換骨奪胎して盛込み『南総里見八犬伝』後半の冗長さを大胆にre-modelした、まさに波乱万丈かつ荒唐無稽な一大伝奇物語なのである。当時(月)~(金)の夕方6時30分〜45分に(この時間帯で20%超えの高視聴率だった)TVに噛り付いていた方々、1973〜1975年へタイムトリップせられよ。
▲ 唐突だが、誠実な新八犬伝ファンサイト情報によればTV第86話が新たに発見されたという! しかも86話はこの時点(謎の修験者・寂寞道人肩柳がその正体を犬塚信乃に明かす辺り)までの総集編なので、通常よりも放送時間が拡大された回。玉梓が怨霊と並ぶ里見家最大の敵なのにスチール写真さえ残っていない関東管領扇谷定正(確か人形は覆面をして素顔は隠されていた)が見たい!まだ確実な話ではないが、DVDの発売が待ち遠しいではないか。
失われていた初期大河ドラマの録画が個人所有分の提供でポツポツと復活を遂げている昨今、『新八犬伝』とて可能性が全くゼロな訳ではあるまい。欲を言えば中盤以降(ノベライズでいうと中~下の巻)の映像が発掘されないか? もしもご家庭で当時の『新八犬伝』録画テープをお持ちの方がいらっしゃったら何卒NHKまでご一報をお願いします。
(銀) 第86話についての続報はそのうちupする予定のDVD『NHK人形劇クロニクルシリーズVol.4 新八犬伝』リイシュー盤の項にてふれる。ノベライズ本はここに挙げた復刊ドットコム版が出た後、2017年に角川文庫からもリイシュー。そこではまた別のカバー・デザインが施されていたが、元本となる日本放送出版協会版にあったスチールカット挿絵がすべて削除されており、あれがあるのと無いのでは味わいが全然違った。
『南総里見八犬伝』は昔から小酒井不木や江戸川乱歩によって「探偵小説の中に継承されている要素がある古典」だと説かれてきた。例えば殺人方法。子供向けだから『新八犬伝』には活かされていないが、馬琴の原作だと悪女船虫が街娼となって引きずり込んだ男の舌を噛み切って殺害し、懐中の金を持ち去る場面がある。
ほぼ『南総里見八犬伝』のとおりに進行する『上の巻』の範囲でも『新八犬伝』には改変部分がありましてな。物語の冒頭、玉梓の首を刎ねるのは原作では金碗八郎だが『新八犬伝』では八郎は出てこず息子の金碗大輔(=丶大法師)が八郎のぶんも兼ねている。また原作では網乾左母二郎も浜路も本郷円塚山で死んでしまうが、『新八犬伝』ではふたりとも最終回まで登場する。
今迄、幼かった自分を探偵小説・幻想文学の世界へ招き入れたのは乱歩の『少年探偵団』だったと思い込んできたけど、もしかしたらその前に八犬伝があったのかもしれない。探偵小説そのものは大好きだがマニア面して探偵小説に寄生している輩は生理的に大嫌いなので老齢になったらもう探偵小説は見限って、現在の時点で最も新しい馬琴原作本の『南総里見八犬伝』新潮社版及びチェックをすっかり怠っていた近年の八犬伝研究書、読書の対象をそれらのみに絞ってしまおうかなんて思ったりもする。とか言っているうちに丁度時間となりました。本日、これまで。