2020年11月7日土曜日

『猿神の呪い』川野京輔

2014年6月4日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

新風舎
2003年4月発売



★★★★★   意外に面白かった昭和30年代伝奇スリラー




街の古本屋で見つけた本だが、2003年の刊行時にはすっかり見落としていた。川野京輔の本名は上野友夫。1954年、NHK入局。彼の業績は『推理SFドラマの六十年』にて知ることができる。数々のミステリー・SF/ラジオドラマを手掛けながら作家としても活動した異色の経歴を持つ。本作「猿神の呪い」は1960年、島根新聞にて半年間連載したレア長篇で、初の単行本化。

 

 

■ 松江のラジオ局プロデューサー郡英之は、自分につきまとう怪しい影に不安を感じていた。そんな郡は大学時代の同窓である猿田春彦と再会する。島根・仁多郡の奥深い集落に居を構える猿田家は代々、子供が生まれるとその当主が必ず死ぬという。春彦の頼みを聞いて郡英之は猿田集落へ向かうが、そこは陸の孤島と化した忌まわしき呪いの地だった・・・。 ■

 

 

著者の本業を主人公に投影、当時赴任した地方のローカリティをふんだんに盛り込み、ロマンスもありつつ不穏なムードで物語は進む。怪猿・ミイラ・サディズムと著者の筆は暴走し、結末で暴かれる怪猿と宝物の謎は「なんじゃそれ?」と笑ってしまった。現代なら絶対難癖をつけられそうな表現もあるのに、最後まで掲載した島根新聞は偉いもんだ。

 

 

内容はいわゆる伝奇スリラー。同時代の大河内常平あたりと比べたら、文章は整然としている。江戸川乱歩、あるいはそれ以前の村山槐多に見られる「怪の物」(あやしのもの)風テイストもあり、好事家ならそれなりに楽しめると思う。『たそがれの肉体』『コールサイン殺人事件』等の旧い単行本は既読だけど、それ以外の川野京輔の探偵小説ってどうなのだろう、是非発売してほしいところだ。ちなみに版元である新風舎が経営破綻しているので、本書の重版は望めない。

 

                    


上野友夫名義の仕事では、7582年頃のNHKAMでオンエアされていた江戸川乱歩や横溝正史のラジオドラマがなんとも懐かしい。下手なTVドラマや映画より格段に優れていたので、こちらも商品化を熱望する。このレビューを書いている時点では御本人も健在らしく、やるなら今しかない




(銀) 上記のレビューを書いた後に『川野京輔探偵小説選』Ⅰ・Ⅱが刊行、『推理SFドラマの六十年』も再発された。川野の探偵小説は放送局関係といった似たような設定が多く、あくまでマニアが読む対象以上の内容ではないかな。

いくら論創社が川野の小説をプッシュしようが、彼の最も誇れる仕事といったらラジオドラマ、これに尽きる。明智小五郎を広川太一郎が演じ、当時局アナだった中西龍の語りが乱歩の名調子そのままの雰囲気で実に素晴らしかった連続ラジオ小説がそれだ。そのうち「黄金仮面」「魔術師」「吸血鬼」「人間豹」の分の、希望者にプレゼントされていた番組主題歌/挿入歌の楽譜を今でも保存しているのでご覧あれ。



   「黄金仮面」楽譜     「魔術師」「吸血鬼」「人間豹」楽譜


歌詞を書いている杉野まもるは川野京輔の別名。この四作 +「地獄の道化師」「化人幻戯」だけは欠落無く良い音質でもう一度聴きたいなあ。どうして当時ノーマルのカセットでいいからテープに全話を完全録音しておかなかったのだろう・・・。商品化してくれるのが一番嬉しいけど、ラジオドラマのソフトって難しそうだし、今はRadikoという便利なものがあるので、あらかじめ抜かりなく事前告知をした上で再放送してくれないかな。川野翁ご本人からNHKへ強権を発するってのは無理ですか?