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NHKラジオ第一
1979年12月3日~12月29日放送
★★★★★ シリーズ中、一番の出来といったら
前作『黄金仮面』がリスナーに大歓迎され、スタッフもこの路線に手応えを感じたようで、広川太一郎を明智小五郎役に据えた当シリーズは年末のレギュラー化が決定。全十五回放送から全二十回へ一週間拡大されたぶんドラマの展開にゆとりができ、当時の流行歌を含む昭和初期の時代背景紹介も(話の邪魔にならぬ程度に)豊潤になった。
二作目ともなるとツボを心得たもので登場人物に対する各声優陣のキャラ付け、場面場面における効果音や短い劇伴素材など、よりキメ細かに演出されているのがわかる。そして、つい聴き流してしまいそうな部分ながら、玉村妙子/花園洋子といった令嬢達が演じられる際、戦前のセレブな日本女性の喋り方をそれっぽく体現できているところなど、そこはかとなく耳をそばだててしまうのだ。
『魔術師』の音源は数年前までネット上にupされていたのだが、今回探してみたら削除されていた(だから、こういうのはあるうちに聴いとかなきゃ)。たまたま本作は1979年の初回放送時、全回カセット・テープに録音していたこともあり、運良く記事にすることができてヨカッタ。
なにせ困るのはカセット・テープを再生するデッキの経年劣化。この記事を書く為に『魔術師』を録音したTDKの120分テープを聴き始めてみると、最初のうちは大丈夫だったのが、だんだんキュルキュルと変な音がし始めて、なんとか最後まで聴くことはできたものの、私のカセット・デッキの寿命はもはや無きに等しい。誰かがなるべくコンディションの良い音質で『魔術師』をupしてくれるといいのだけれど。
昔このラジオ・ドラマを録音していた人は皆、カセット・テープが手元に残っていたとしても、再生機が無いので聴くに聴けず、それゆえネットにupしたくてもできないに相違ない。LDとかVHSとかカセット・テープとかオールド・メディアを〝ないがしろ〟にするから、再放送だけでなくソフト化さえ見込めない過去の良質なコンテンツは次々と失われてゆく。クソッタレ。
それでは『魔術師』の全サブタイトルと主要な声の出演者を。
第一回「3の数字は殺しの予告」
第二回「獄門舟が隅田を下る」
第三回「何を笑うか西洋道化師」
第四回「まさか、明智が死のうか」
第五回「8の記号は殺しのナンバー」
第六回「悪魔の棲処は幽霊塔」
第七回「その時洋子は蒸発した」
第八回「美女解体は鹿鳴館」
第九回「恋は闇路というけれど」
第十回「恋の逢瀬も束の間に」
第十一回「地下室へどうぞ」
第十二回「君よ死の踊りを踊れ」
第十三回「殺しの罠は出口にあった」
第十四回「二つの顔を持つ男」
第十五回「悪魔の呪いは地上に残る」
第十六回「またも殺しの笛の音が」
第十七回「闇の中で待つ男」
第十八回「真紅の部屋に犯人が」
第十九回「殺人魔術の仕掛人」
最終回「女は最後に変身する」
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◖ 声の出演 ◗
語り手 中西龍
明智小五郎 広川太一郎
浪越警部 木下秀雄
玉村善太郎 巌金四郎
玉村一郎 青砥洋
玉村二郎 高橋亨
玉村妙子 吉野佳子
福田得二郎 前沢迪雄
花園洋子 神保なおみ
牛原耕造 庄司永建
玉村幸右衛門 巌金四郎
奥村源次郎 庄司永建
文代 倉野章子
奥村源造 庄司永建
主題歌は三船浩「恋は魔術」。挿入歌は無し。
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進一少年の役は声優を特定できなかった。
『黄金仮面』の時と違ってサブタイトルは原作の章題に準拠しなくなり、サブタイトルを文字にして一覧にするとなると、音源から聴きとらねばならない。ところが、中西龍の語り方は独特の雰囲気を出すため、各回のサブタイトルを言う時に語尾がよく聴き取れない場合がある。この『魔術師』においても、何度注意深くヒアリングしても、第四回は「・・・死のうか」であっているのか確証が持てないし、最終回は「・・・変身する」と私は受け取ったけれど「翻心する」でないとは言い切れない。演出担当の上野友夫(=川野京輔)もしくは「NHK番組発掘プロジェクト通信」のwebサイトが正確なデータを教えてくれればなあ。
『黄金仮面』→『魔術師』→『吸血鬼』→『人間豹』→『地獄の道化師』→『化人幻戯』と続く当シリーズ。原作の評判が良いのはやはり最初の二作なので【連続ラジオ小説】でも人気が高いのは『黄金仮面』か『魔術師』となるのだろう。主題歌だけなら『黄金仮面』が一番良いのだがドラマの出来で選ぶのであれば『魔術師』がもっともバランスの良い完成度に仕上がっていると私は思う。そもそも「魔術師」という長篇は原作からして密室トリックが弱いとか、厳重警戒が敷かれた玉村邸に忍び込んで一郎に罠を仕掛けたり花園洋子を拉致できたのは一体誰なんだ問題があったりするのに、それでも面白く感じさせるのだから実に不思議な作品だ。
黄金仮面の久松保夫、人間豹の尾藤イサオ、悪役キャラはいずれも文句の付けようが無いぐらい原作どおりのイメージに演じてくれており、その中でも魔術師・奥村源造を演じた庄司永建は(牛原耕造/奥村源次郎の演じ分けも含めて)本当に素晴らしい。明智と文代/明智と妙子それぞれのシーンは原作に適度に色付けしてあるが、文代のセリフで「愛しています」を言わせ過ぎなところも。だって魔術師一味は海上の怪汽船へ明智を拉致してきて、文代はその時初めて名探偵に会ったばかりなのに、明智の怪汽船脱出シーンで「愛しています」と告白するのは、心の中で惹かれているとはいっても、ちょい早すぎるんじゃないの?などと言いつつ、本作がシリーズのベストであるのは間違いない。
(銀) 文代役は『魔術師』で演じてくれた倉野章子でそのまま継続してもらいたかったのに、この後声優が二転三転。上野友夫によれば、動かせないレギュラーである中西龍や広川太一郎とスケジュールが合わなかったんだって。余談だが倉野章子は角野卓造夫人でもある。
『黄金仮面』では山村正夫解説があったが、あれがあるとドラマの流れを止めてしまうし、なによりも「蜘蛛男」の発表を昭和3年と言ったり、「文代」を「ももよ」と言ったりしていたので、無くして正解。