2023年2月18日土曜日

『あたしが殺したのです』森田雄三

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河出書房新社
1961年7月発売



     比類なきつまらなさ
   



❦ 直木賞受賞作家である木々高太郎が昭和38年に立ち上げた同人文芸誌『小説と詩と評論』。その主宰を木々より引き継いたのが森田雄三。木々が明治30年生まれで森田は明治43年生まれ。大阪圭吉より二つ年上の世代になる。世間では〝森田雄蔵〟名義で通っているみたいだが、今回取り上げる『あたしが殺したのです』のクレジットは〝森田雄三〟なので、当Blog内でのラベル(=タグ)は〝雄三〟表記で扱おうと思う。




『小説と詩と評論』ってガチで芥川賞や直木賞を欲しいと思っている人間が集まる場じゃなかったっけ。森田の立場も、言うなれば〈ゲージュツ性〉を重んじる文学派である筈。そのわりにはこの長篇、ストーリーにヤマが無いし、単にヘンテコな小説でしかないじゃん。若い頃は『新青年』を愛読していた森田からすれば、好機到来とみて変格ものに取り組んだつもりだったのかもしれないが、結論から先に言えばここまでどうしようもないイカモノにはなかなかお目にかかれない。そんなレベルの珍作奇作怪作、つまるところ駄作。この人の文章、上手いと思えないのも問題だし。

 

 

 

❦ 内容に触れる前に、この画像をクリックして見て頂きたい。

本書の目次ページなのだが、ひとつひとつの小見出しが奇妙に長く、読む前から「何これ?」感を発し、読者をとまどわせる。 

 

K坂病院。院内はドロドロした人間関係が裏で渦巻いているらしい。主役といっていいであろう婦長は深夜、ある状況下になったら豊かな髪を振り乱しピンクのネグリジェを脱ぎ捨て、死臭漂う霊安室で一種のトランス状態に陥る。江戸川乱歩作品なら〝一寸法師〟と表現されそうな小男の雑役夫・無名瀬茂呂(むなせもろ)には、指先のテクニックをもって(まるで乱歩の「盲獣」のように)婦長をトロけさせる愉しみがある。この小男が次々とけしからん行為だったり残忍な殺人淫楽にふけるのかと思いきや、怪しのアイコンはむしろ婦長のほうだったりして・・・。

 

 

 

❦ 猟奇的だろうがエログロだろうがサドマゾだろうが、小説は面白ければ素材は何でもいい。とにかくこれはちっとも面白くない。ネタバレに気をつかう必要もないんだろうけど、タイトルにリンクしてくるキャラクター背景は現代の大手出版社ならきっとビビるに違いないし、(度が過ぎる)ポリティカル・コレクトネスに必ずひっかかりそうな匂いがする。乱歩が本作の推薦文を書いているのは北川千代三『H大佐夫人』の例もあるからまだわかるとして、宇野浩二までもがどうして宣伝に協力したんだろう?どんなにヘンタイ度が濃くとも、せめて木々高太郎の代表作「睡り人形」みたいな普遍性(?)が欲しい。

 

 

 

(銀) これだったら栗田信「醗酵人間」のほうがまだリーダビリティがある。私は森田雄三という人について詳しくないので、彼がなぜこんな小説を書いたのか、どなたか御存知の方は教えてもらえませんか?