守友作品はキャラ設定に長け、本格にありがちな単なる「将棋の駒」ではない。また適度な情感があり、些細な事だがキャラのネーミングも良く、黄木陽平が常に完全な勝利者ではないのも魅力的。たまに「死線の花」の犯人のカムフラージュが慣れた読者にはバレぎみだったり、トリックの斬新さ・プロットの描写力があと一歩あったら横溝正史級に肉薄できたと思う。(ま、その「あと一歩」が乱歩・正史と他の探偵作家の大きな壁ではあるのだが)
とはいえ、この面白さで何故今まで守友恒が評価されなかったのか不思議。同じ日本の本格長篇でも私は蒼井雄『船富家の惨劇』よりこっちの方が断然好きだ。大阪圭吉でさえ本格長篇はないのだから推して知るべし。いやいや、この叢書が再開に際し版型が変わりニ段組になったのを忘れるぐらい夢中で読みふけってしまった。早くも2012年における探偵小説の新刊本 No.1 確定だ。もっと他の作品も読みたいし、失われた四百枚長篇「完全殺人事件」も奇跡的に発掘されたりしないだろうか。
(銀) 待ち焦がれていた守友恒の新刊とはいえ、我ながら「本格、本格」とやや騒ぎ過ぎの感あり。手掛かりを十分に提示した一部の隙もない構成とまでは行かないが、日中戦争が始まった後の探偵小説としてはちゃんと謎解き指向を実践しているのが偉い。守友はあと一巻組める程の作品が残っているんだが。
本文中でも書いているが、叢書再開されたこの第51巻から本の版型が長方形のA5版に、テキストのレイアウトが二段組に変更された。
カバーデザインを第1~2巻平林初之輔の時の、初出の挿絵をコラージュするスタイルに戻したのが良かったし、それまでの正方形タイプのA5変形版は本棚に並べる時やや扱いづらいこともあったのでA5版になって嬉しいが、こんな事なら第1巻からこの版型で統一しとけばスマートだったのに。