2025年3月25日火曜日

『謎の骸骨島』水谷準

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同盟出版社
1948年6月発売



★★   水谷準の怪奇冒険ジュヴナイル




この本、巻頭の口絵が一色刷りとはいえ31ページもある。
挿絵を描いているのは高木清。表紙絵は蘭照彦。
彼らの絵は味わい深くて良いのだが、肝心の小説は・・・。



                  

 
 
勤め人の帰宅してしまった関東ビルディング。主人公の鉄也少年は義理の兄・信一が宿直~泊まり込みなので遊びに来ていた。すると、無人な筈の屋上で西洋の剣を持った二人の男が決闘しているではないか。鉄也に見られているとも知らず、濃い髭をたくわえている体格のいい男が若い青年を斃し、その軀(むくろ)を東京湾に沈めてしまおうとする。危険も顧みず髭の男を尾行、そいつの用意していたモーターボートに忍び込む鉄也。しかし悪漢どもに見つかってしまい、縄で胴体を縛られた上、錨(いかり)の重しを結び付けられ、若い男の軀ともども海中に投げ込まれてしまう(このシーンの口絵もあり)。

 

 

小さな帆船の船長だった君島照光はある時、少なからぬ財産を持ち帰り、それを元手に各種事業を成功させた。既に君島氏とその夫人は亡くなっているが、骸骨の形状をした島のような図面が一人娘の小百合に遺されている為、君島氏は南洋のどこかの無人島で莫大な財宝を見つけ出したに違いないと世間ではまことしやかに囁かれている。その図面を手に入れるべく、君島小百合に接近してきたのが例の髭の怪人物・宇垣剛造。



                   
 

 

実質100ページちょっとしかないので中篇程度のストーリーだけど、子供向けとはいえ、あちらこちらに矛盾点やルーズな御都合主義が多いのは困りもの。宇垣剛造と決闘して胸を剣で刺されたのに、一週間休んだだけで何事も無かったかの如くピンピンしている阪東淸彥。てっきり死んでしまったと鉄也が思うぐらい重傷だったんじゃなかったのか?グルグル巻きにされて海に沈められた鉄也もその直前、悪漢が船底に落とした短刀を手に掴んでいたというけれど、両手の自由が利かないのにどうやって短刀で縄を切れるんだ?それなりの理由付けをしないと、子供の読者にだって笑われるぞ。





タイトルは「謎の骸骨島」なのに鉄也&阪東淸彥コンビと宇垣剛造の攻防は島へ渡るところまで描かれず、悪漢の魔手から島の図面を守り切った時点で終了。執筆依頼元から「適度に短めの尺で収めて下さいね。宜しくお願いしま~す」と云われ、そのお気楽な注文どおりの出来になったのかもしれない。内部事情はともかく、所詮ジュヴナイルだから・・・などと言いたくはないが水谷準の筆の熱は伝わってこない。話の骨子はこのままに、戦前の博文館雑誌『文藝倶楽部』や『朝日』で連載していた通俗スリラーぐらいの長さとテンションが本作にもあれば、それなりに面白くなったかもしれないのだが・・・。

 

 

 

(銀) 江戸川乱歩/横溝正史に限らず、後世に名前が残った作家はジュヴナイルでも手抜きをしたりせず一定のクオリティーを保ちつつ作品を書き上げている。リアルタイムでむさぼるように本作を読んでいた昔の子供だってバカじゃない。〝タンテイショーセツ〟と名の付くものならどんなに酷い内容でもマヌケ面して喜んでいる知能の低い令和の年寄りとは違うのである。終戦直後の少年少女も〈面白いものと面白くないもの〉〈作家が腰を据えて書いているものと書いていないもの〉を彼らの幼い感性なりに見分けていたのではないか。
残念ながらこの『謎の骸骨島』では、そんな子供たちのハートをガッチリ掴むのは難しい。