本書の帯には次のような宣伝文がある。
〝 気品があり、健康的で陽性なエロテシズム、そしておおらかな笑いにみちた仏蘭西粹艶小咄は、古くから世の大方の風流人士の愛好するところとなつているが、現在の暗く嚴しい現実の中でもつと多くの人々が、このセンスを玩味するなら、世の中は常に花園のように明るく楽しいことだろう。
先に当社で出版した「粹人酔筆」は息づまる様な現実生活の中にしみじみとした人生の悅楽を見出すものとして大好評を博したがそのフランス版ともいふべきものが、本篇である。〟
早稲田在学時にはフランス文学科を専攻していた水谷準のフレンチ嗜好を前面に押し出した本。タイトルのとおりフランス製のちょっとHなショートショートを集めたもの。エッチといっても半世紀以上前の日本人の感覚だから現代人から見ればたわいもないエロ・コメディばかり。冒頭と最後のカミ作品はやや枚数があり、前者「處女華受難」には名探偵ルーフォック・オルメスが登場(本書ではルウフォック・ホルメスと表記)。
◓「處女華受難」カミ
「衣装箪笥の秘密」のタイトルで記憶している人もおられよう。しかし殺人鬼の脳を移植された箪笥が暴れ回るって、どんだけ馬鹿馬鹿しいハチャハチャなんだか。
◓「ふらんす粹艶集」(含7本)
◓「金髮浮氣草紙」
アレクシス・ピロン「蚤の歌」
ザマコイス「当世売子気質」
フィシェ兄弟「エレベーターをめぐる」「浮気の円舞曲」「悔い改める」「ぶらさがりの記」
ジャン・フォルゼーヌ「カフェ・ファントムの一挿話」「フォレット嬢の新床」
シャルル・キエネル「美しい眼のために」
レオ・ダルテエ「田舍ホテル」
ファリドン「ベルティヨン式鑑別法」
ピエール・ヴベ「ヴォスゲスの冒険」
アルフォンス・アレエ「金曜日の客」
ヴィリー「シュザンヌの悪だくみ」
◓「ふらんす艶笑小噺」
◓「てごめあだうちきだん」カミ
あまりに軽~く読み流せる内容なので、カミ以外のものはこの手のコントを受け入れられる人でないと退屈かもしれない。だが、一番華やかだった頃の『新青年』テイストの横溢に興味があるなら手に取ってみるのも悪くはない。古書価もそんなに高くないし。
本書には続篇『第二ふらんす粋艶集』もある。
(銀) 私は持っていないけれど、水谷準には『金髪うわき草紙 奥様お耳をどうぞ』(あまとりあ社)という本がある。これは上記『ふらんす粋艶集』『第二ふらんす粋艶集』を再編集したものだそうで、日本出版協同株式会社の二冊さえあれば無理に探す必要はない。