この『倉田啓明文集/附 一圓タクシー』、いつもどおり東都我刊我書房安定の全く校正・校閲をしていない惨状テキスト。5月15日(月)にはこんなツイートが上がっていた。
(画像をクリック拡大して見よ)
羽柴重作(@kiyama_yusaku) ☜(リンクあり)
〝希覯書の復刊『倉田啓明文集』が、冒頭から「街頭←外套」の校正モレ。薄冊で定価5,000円でこの仕事は許しがたい。ドド素人の仕事。〟
善渡爾宗衛の作った本を一度でも読めば、こうした疑問を抱くのが常人の感覚である筈。珍しく真っ当な怒りの声がSNSに上がってるなと思ったら、不思議な事にこのツイートは翌日になると雲散霧消。フ~ン、どうしたんだろうね。この羽柴重作という方は西村賢太に心酔なさっておられるようで、今年の二月に東都我刊我書房が発売した『怪奇探偵小説家 西村賢太』を不幸にも買ってしまい、すっかり杉山淳/小野塚力/善渡爾宗衛を立派な識者だと勘違いしてしまわれた様子。
しかし、さすがに本書を読んで校正・校閲作業を全くせず制作されているのに気が付いて、ごく自然に上記のツイートをなさったものとお見受けする。こうなると、あの三人が逆ギレして攻撃してくるのはいつものこと。小野塚力が自分の所業は棚に上げ、翻訳家T氏に訳のわからない恫喝メールを送り付けたのと同じパターンで、おそらく羽柴氏にも善渡爾/小野塚/杉山の三狂人が「お前、訴えたろうかあッ!」てな下品な言葉でドヤしつけ、ビビった羽柴氏は前言ツイートを撤回してしまった、そんなところではないか。しかし、もし本当にそうだったとして、たかがSNS上での恫喝ぐらいでどうして自分の正論ツイートを引っ込めてしまうのだろう?羽柴さん、貴方は何も悪くありませんよ。貴方の怒りを世間に拡散すべきです。
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今回も210頁ほどの本のうち47頁までを占めている「稚児殺し」だけで、以下のような入力ミスがてんこ盛り。幸い「稚児殺し」の正しいテキストを確認するにはオリジナル旧仮名遣いのままで制作された龜鳴屋版『倉田啓明譎作集/稚兒殺し』があるのでそれを参照しながらチェック。本書『倉田啓明文集/附 一圓タクシー』は現代仮名遣いにしたテキストの筈ながら、製作者のアタマが正常ではないので現代仮名遣いへ変換できていないところだらけ。それでは惨状の模様をどうぞ。以下、左が龜鳴屋版「稚兒殺し」テキスト。右が腐敗せしめたる東都我刊我書房版「稚児殺し」テキスト。
外套(〇)→ 街頭(✕) 5頁2行目
願はうとはしちやゐないんだ。(〇)→ 願おうとはしちゃいないだ。(✕) 6頁11行目
人生といふものが(○)→ 人生とこうものが(✕) 7頁15行目
土といふ(〇)→ 土とこう(✕) 9頁14行目
有つてゐるといふ確信が(〇)→ 有っているとこう確信が(✕) 12頁15行目
「モデル」といふ言葉(〇)→ 「モデル」とこう言葉(✕) 13頁6行目
持つてゐないといふこと(〇)→ 持っていないとこうこと(✕) 13頁13行目
たつた一人の波山寛(〇)→ たった一人の○山寛(✕) 15頁8行目
だのといふ言葉が(○)→ だのとこう言葉が(✕) 15頁16行目
愚かで(○)→ 愚で(✕) 16頁4行目
あるばかりだ。」(○)→ あるばかりだ」(✕) 16頁6行目
この他にも会話文の句点(。)が悉く欠落しているが、手間なのでいちいち取り上げない。
生活といふものが(○)→ 生活とこうものが(✕) 20頁12行目
かういふ蛆蟲のやうな(○)→ こうこう蛆虫のような(✕) 20頁13行目
牝豹の毛皮(○)→ 雌豹の毛皮(✕) 22頁16行目
中學の一年生(○)→ 中学の一年(✕) 23頁13行目
己れはなんといふ卑怯な(○)→ 己れはなんとこう卑怯な(✕) 24頁6行目
柔い肉を銜へた。彼はこの時(○)→ 柔い肉を銜へた彼はこの時(✕) 24頁10行目
紅く顫へてゐた。(○)→ 赤く顫えていた。(✕) 24頁14行目
全生命と死とを以て(○)→ 全世命と死とを以て(✕) 25頁3行目
愛の思想を考へると(○)→ 愛の思想を考へると(✕) 25頁8行目
本書では現代仮名遣いに変換すると言っておきながら、やり忘れている箇所多数。
はッと心付いて(○)→ はット心付いて(✕) 25頁10行目
女中が退く時(○)→ 女中が退くとき(✕) 26頁4行目
「大きにお世話だよ。(○)→ 「大きなお世話だよ。(✕) 27頁11行目
能きないといふ(○)→ 能きないとこう(✕) 27頁18行目
といふ心持がした。(○)→ とこう心持がした。(✕) 28頁7行目
果すことが出来ない(○)→ 果たすことが出来ない(✕) 31頁13行目
快樂といふものが(○)→ 快楽とこうものが(✕) 31頁16行目
優しく尋ねた(○)→ 易しく尋ねた(✕) 32頁7行目
漸やうのことで(○)→ 漸やくのことで(✕) 33頁17行目
滅び去つた寛の生命(○)→ 滅び去った間の生命(✕) 38頁3行目
殺さうといふ意志(○)→ 殺そうとこう意志(✕) 41頁13行目
精神病患者でないといふ事(○)→ 精神病患者でないとこう事(✕) 41頁15行目
思想を罪するといふことは(○)→ 思想を罪するとこうことは(✕) 42頁13行目
問題であるといふ觀念(○)→ 問題であるとこう観念(✕) 43頁11行目
波山寛といふ人間の肉體(○)→ 波山寛とこう人間の肉体(✕) 44頁4行目
霊魂を殺したといふ(○)→ 霊魂を殺したとこう(✕) 44頁6行目
さういふものは(○)→ そうこうものは(✕) 44頁12行目
許すべきものであるといふことも(○)→ 許すべきものであるとこうことも(✕)46頁13行目
分裂のために苦んだか(○)→ 分裂のために苦んだ(✕) 46頁18行目
生きるといふことが(○)→ 生きるとこうことが(✕) 47頁8行目
私も長いこと日本で生活してきたけど、善渡爾宗衛のようにひらがなの〝い〟と〝こ〟の区別が付かない人間というのは生まれて初めて見たわ。昭和の頃、ヨボヨボで頭がボケてしまっている年寄りの医者が、ガタガタ手が震えて細かい作業も覚束ないのに手術などするものだから、患者を助けるどころか殺してしまう・・・・なんてドリフのコントみたいな老害事件がよくあった。善渡爾宗衛の本作りもそれと全く一緒。被害に遭っているのが人間ではなくて他人の小説、その違いだけ。
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本書は「稚児殺し」の他に「地の霊」「一圓タクシー」を併録しているが、まあ改めて説明するまでもないでしょう。特に「一圓タクシー」は〝仰向け〟と〝俯伏せ〟を混同していたり、登場人物の漢字が場面によって違っていたりと、「稚児殺し」同様読めたものではない。
龜鳴屋が平成15年に出した『倉田啓明譎作集/稚兒殺し』(本文296頁)は加賀染縮緬装を施す美しい上製の造本ながら、限定499部でも一冊の価格は4,200円だった。それに対し東都我刊我書房のこの『倉田啓明文集/附一圓タクシー』は全部で何部刷っているか不明、どこの印刷会社が製本したかもわからないごくありきたりの並製同人出版本、なおかつ校正・校閲は何もやってないくせに一冊の価格は約210頁で5,000円。龜鳴屋が本を出した年から20年が経ち物価の変動があるとはいえ、これが犯罪的なぼったくりでなくて一体何と言えばいいのか?
(銀) 入力ミスの箇所羅列に相当スペースを割いてしまったため、次回の記事②へ続く。