新聞通信の変人ベテラン探訪記者・加藤太郎というキャラが登場するのだが、これがなんと既に亡くなっており、生前に彼が書き溜めた柳行李一杯の覚え書・ノート・資料・記録・写真を元にして友人である語り手の〝私〟が猟奇/残虐/淫猥な事件の数々を綴ってゆく・・・そんなスタイルを取っている。
「乳房を蒐める」
次々に若い女性が眠らされて裸にされる珍事が発生。しかしレイプ犯ではない模様。映画『水のないプール』の内田裕也みたいな目的かと思いきや・・・。
「もてあそぶ女」
ある裕福そうな家へ郵便配達が郵便物を届けたところ「けけけけ・・・・」という尋常ならざる不気味な狂笑が聞こえてきた。玄関の戸を開けると全裸乱髪の女が血に濡れて、鼡(ねずみ)をガリガリ齧っているではないか。加藤太郎は問題のその家へ駆け付ける。なぜ彼女が鼡を喰らうのか、もう一味幻想的な猟奇性が演出できればよかったのに。グロいけど惜しい。
「桃色の祈禱師」
加藤太郎は西大路廻り京都行き市電の中で掏摸を働いた男を捕まえ、盗んだ財布を取り上げた。その財布の中からSM行為をしている女の写真が。事件はオカルトな方向へ。
「女は灯の下にいる」
ここからなぜか加藤太郎が登場しなくなり、本作では旬刊特種ニュースという怪しげな新聞社の記者・新田太郎が主人公を務める。酔った新田は暗く寝静まった屋敷町でタクシーを下車した。その道端に立っていた女が外套の前を思い切り開くと一糸纏わぬ肉感的で美しいハダカ。この後の流れは伏せなければならないが、どんどんつまらない展開に。
「靴下を脱ぐ女」
したたかなる生命保険外交員・葉月絵津子は助兵衛な日東商事の老社長・大角弥五郎を挑発して自分の躰で楽しませ、五十万円の生保に加入させようとする。老社長は小切手を書くため書斎に入ろうとしたその時、何者かが彼の首をギリギリと締め上げた。誰もいないはずの大角屋敷で、片方のストッキングによって老社長が絞殺された事により、絵津子に殺人容疑が降りかかる。
海外古典ミステリのいくつかのタイトルが出てくるし、なんらかのトリックが施されているのを期待してしまうが、結局サスペンス風ドラマにありがちな解決でガッカリ。
何をもってその作品を探偵小説とみるか。殺人が起こったり捜査を描写するだけでは足りない。謎解きでも変格幻想でもどちらでもいい。なにがしかのショック、もしくはどんでん返し、予想の外の驚きを読者に与えなければ探偵小説とは認めづらい。
あまとりあ社には何人かの探偵作家の著書がある。島本の場合もうまくエロを使って探偵小説が書けていればよかったのだがどうも妙味に欠けるし、犯罪実話風こそ免れているものの朝山蜻一のような風俗ミステリの味付けがある訳でもない。残念。
(銀) 島本春雄でいうと『六姫無惨絵巻』も良いとは思えなかった。あの本は『濡れた夜曲』よりもずっと緊縛の世界に振り切った内容だが、優れた美点は特段見つからず。ディープなSM世界は自分に向いていないようだ。