2023年4月22日土曜日

『猫目小僧』楳図かずお

NEW !

小学館 Big Comics Special 楳図パーフェクション!(6)
2006年8月発売




★★     要らぬ改変を強要する奴らは
                 肉玉に取り憑かれてしまえ

 

 

書店の文庫コーナーに立ち寄ったら『ゲゲゲの鬼太郎』が中公文庫からリイシューされていた。鬼太郎も悪くないけど妖怪なら私は猫目小僧。そういえば猫目小僧のアニメって昔あったけど、あれはなんで普通のセル画と違って切り絵みたいな作りだったのだろう?




この作品は昭和42年から昭和51年にかけて『少年画報』→『少年キング』→『少年サンデー』という順に転々と掲載誌を変えながら発表されてきた(とはいっても雑誌で読んだ記憶があるのは『サンデー』の頃だけだが)。長篇もののように同一ストーリーをずっと続けてゆくのではなく一つのエピソードに費やされるのは数回。

一応、全エピソードを収めているらしいこのUmezz Perfection!版全二巻は次のような収録内容になっている。第二巻の終盤『サンデー』期の読切短篇「約束」「手」「ともだち」は発表順に並べられていない。

 

 

第一巻

「不死身の男」「みにくい悪魔」「妖怪水まねき」「大台の一本足」「妖怪百人会(前編)」

第二巻

「妖怪百人会(後編)」「妖怪肉玉」「妖怪千手観音」「階段」「約束」「手」「ともだち」

 

 

どうやって読者を怖がらせるかというのは、回を重ねて物語のうねりを紡いでいくというよりもアイディアの一発勝負にかかっている。楳図漫画のキャラとして猫目小僧はチキン・ジョージを超える知名度を誇っているけれど、プロットを気にして読んでいくと少々食い足りない点もあり特に後年の『少年サンデー』期は弱い。昔読んだ時はそんなに気にならなかったんだがなあ。「まことちゃん」と時期がカブっているから、あっちにエネルギーを持っていかれてしまったのか。

 


昭和のマンガが軒並み被っているように「猫目小僧」も余計な改変がなされているみたいで、「妖怪百人会」というエピソードはもともと「小人ののろい」と題されていた。ネットで調べたところ少なくともサンデーコミックス版まではどうにか「小人ののろい」のままだったようだが平成以後の単行本でやられてしまったか、それともこのUmezz Perfection!で「妖怪百人会」へ変えられてしまったのか、旧版コミックスを持っていないからわからない。いずれにせよ本書は初出オリジナルのままに編集されてはいない。

 

 

読んでいても何故「小人ののろい」だとマズイのかさっぱりわからん。このエピソード名に問題があるというのなら、「猫目小僧」の内容は他にもヤバイところだらけではないか?もうひとつ自主規制ではないけれど初出との異同をお目にかける。「小人ののろい」「妖怪百人会」篇の最後のページ、ネットで見つけた初出ヴァージョン及び本書Umezz Perfection‼ヴァージョンを見比べてみよう。

 

 

画像① 初出誌の吹き出し

「こうしてねこ目小僧はやみの中に消えていく」

「そうしてこのつぎあらわれるのはもしやきみのところかもしれない・・・・」



 

画像② 本書Umezz Perfection!第二巻の吹き出し

「この次猫目小僧があらわれるのは・・・・・・」

「もしやきみのところかもしれない・・・・・・」

 

 

画像①初出誌における下のコマは次回予告のため、単行本にする時書き変えられるのは普通の事である。また上のコマのネームはなにか通念上の問題がある訳ではなく、作者楳図かずおの意図によって変更したのだろうから目くじらを立てる必要はないだろう。ただクレームを懼れる表現の改悪以外にこんな異同箇所もあるのでUmezz Perfection!版『猫目小僧』に初出のオリジナルな内容を求める人は、決してそうではないという情報をお知らせしておく。

 

 

本書は2022年のUmezz Perfection!シリーズ増刷ラインナップに入らなかったので、現在は中古で探すしかない。過去の単行本には一番最後に描かれた「約束」が収録されていないものもあるそうだから、全エピソードを読みたい人にはいいのかもしれないが・・・。




(銀) 昭和のマンガの設定が平成以降の再発時ねじ曲げられてしまった例で思い出すのは藤子不二雄「プロゴルファー猿」。ジャック・ニクラウスがゴールデン・ジャックにされたり、実在するプロゴルファーの名前が変えられてしまったのは人格権でまだ仕方ないとしても敵のキャラの名前「フラン拳」を「コング拳」に、「闇の市」を「闇兵衛」に変えなきゃならない理由って何よ?オリジナルを知る者としては興醒めも甚だしい。

あと全くの余談だが「プロゴルファー猿」は〝名誉〟が欲しくなったといってアマチュアの世界で戦いだしてから次第につまらなくなっていった。ずっと影のプロゴルファーと戦い続け、最後の最後にミスターXと決着を付けて終わればよかったのである。私はアニメ版は一度も観たことがない。



藤子といえば「魔太郎がくる!!」に対する規制もひどいもんだけど、あれがダメなら探偵小説にだってマズイ表現はたくさんあるだろうに。