2023年3月16日木曜日

『14歳〈Volume.3~4〉』楳図かずお

NEW !

 
小学館 Big Comics Special 楳図パーフェクション!(13)
2012年12月発売




★★★★   ② 改めて作者の奇想に敬意を表す




 物語も折り返し地点を過ぎVolume.34を読んでいくと、本作の主人公が実はチキン・ジョージではないらしいことが次第に判明してくる。そして、人間の本性がどれほど残虐だったかという事実も・・・。


 

Volume.3

4章  地球重態                                       第5章  子ども選び

6章  大破滅 第1節 UFO大飛来     第7章  大脱出

 

Volume.4

7章  大脱出        第8章  人類最後の日

9章  人類滅亡後の旅    最終章  ムシ

 

 

 前回の記事から引き続き紹介している愛蔵本『14歳』は、本編が印刷されている紙のベースの色が一冊の中で微妙に異なっていたり、扉頁にエンボス加工が入っているだけでなく、このUmezz Perfection!版を〝完全版〟とするため最終巻Volume.4における本来のエンディングのあとに加えられた、フルカラー18ページ新しく描き下ろされた最終形完結シーンを読むことができる。更に読み応えたっぷりの楳図かずお超ロングインタビューもあり、今までのコミックスを全巻持っているからUmezz Perfection!版を買うのを控えていた人でさえ、Volume.4だけはどうしても買わざるをえない。本来のエンディングの何倍もドラマティックで、感動的な余韻を残す結末に生まれ変わった。

 

 

 思い返してみると、子供の頃初めて読んだ楳図マンガは何だったか忘れてしまったが、作風がコワイ以上になんとも食欲を減退させる絵だなァと強く感じたものだ。ホラーで気色悪い場面も多い「14歳」だが、フューチャーリスティックな物語なので〝SFの美しさ〟と悪趣味そのものの〝グロテスクさがせめぎ合い、えも言えぬ効果を上げている。

 

 

本作を最後に楳図は長い休筆に入った。その理由のひとつは腱鞘炎だそうで、いつの頃からそれが悪化したのか定かではないが、「まことちゃん」に比べると「14歳」は連載開始時から「線が震えているな」と思って私は『スピリッツ』を読んでいた。「まことちゃん」から既に十年経っているのだから画風が変化するのは当り前なのだけど、本作の連載期間が長くなるに従い腱鞘炎の痛みがひどくなっていったのか、Volume.4あたりの絵はVolume.1よりも粗く、あまり喜ばしい事ではない。

 

 

〝もの(=人工人間)〟による殺人プロレス/天女のようなフォルムをした異星人の襲撃/選ばれた幼児達がチラノザウルス号に乗船して地球を脱出したあとのくだりは、画質が低下しているせいか、或いはストーリー進行に迷いが生じているのか、はたまたチキン・ジョージが物語の最前線から一歩引いてしまうからなのか、Volume.2までと異なりホンのちょっとだけもたつきを感じる。今日の記事でVolume.34の★の数をひとつ減らしたのはそれが理由。けれど総体的に見て、並外れた大作であるのは否定のしようがなく、此の儘「14歳」が楳図かずお漫画家人生のグランド・フィナーレになるのを寧ろ私は望んでいるぐらい。

 

 

 今日の記事の左上にupしたVolume.4の書影(右側)に見られる、いとけない表情の生物が何なのか、本作をまだ読んだことがない方は最後まで読んで、その正体に愕然となってほしい。通常のビッグコミックスにして二十巻をも重ねた「14歳」は奇才・楳図かずおのマグマを吐き出したような、一言ではとても概要を説明しにくい作品だが、結末を見事に着地させているだけでなく悪夢の中にも一条の光が差しているのがイイ。雑誌や通常の単行本でチョビチョビ読むよりぶ厚い愛蔵本で纏めて一気に読むほうが、作品の広がりを掴みやすいのではないだろうか。

 

 

 我々の現実社会が「14歳」に描かれている地球滅亡の時が訪れる西暦2121年に追い付いてしまうまで、あと98年・・・。

 

 

 

(銀) 生ぬるい映画や小説のSF/ミステリで時間とカネを無駄にするぐらいなら、この漫画を何度もじっくり読み返したほうがはるかに楽しめる。あ、でもUmezz Perfection!版『14歳』はぶ厚いから読んでいて本のノド割れには注意すること。