2022年2月11日金曜日

図録『横尾忠則の恐怖の館』

NEW !

横尾忠則現代美術館
2021年9月発売



★★★★   講談社版『江戸川乱歩全集』のイラストは
            すべて横尾忠則に描いてほしかったな




2021918日より神戸の横尾忠則現代美術館にて開催されている「横尾忠則の恐怖の館」展のため販売されている図録(128ページ/価格2,400円)。美術館へ直接足を運ぶか、あるいは横尾忠則関係の通販サイトからしか購入できない。この図録には50代以上の人には懐かしい二度の講談社版『江戸川乱歩全集』に提供されていた横尾忠則の手になるカラー・イラストがまとめて収録されている。該当する乱歩作品はこちら。

「D坂の殺人事件」「赤い部屋」「白昼夢」「屋根裏の散歩者」「闇に蠢く」

「虫」「押絵と旅する男」「猟奇の果」「魔術師」「盲獣」

「鬼」「黒蜥蜴」(×2「人間豹」「石榴」

「暗黒星」「地獄の道化師」「幽鬼の塔」「偉大なる夢」(×2




解説を執筆しておられるのは横尾忠則現代美術館の山本淳夫
さほど詳しくない人が乱歩について語る際、こちらが首を傾げたくなるようなヘンな事を滔々と述べ立てている場面によく出くわすのだけど、この方は乱歩ファンなのか至極真っ当な内容なのがよろしい。講談社版『乱歩全集』が書店に並んでいた昭和の頃、一冊一冊買い集めていたヨコオ贔屓の私は全てのイラストがなぜ横尾忠則でなく古沢岩美や永田力と分担なのか、わがままにも納得がいかなかったものだ。

講談社版『乱歩全集』を手にした多くの人が感じたとは思うが、ヨコオのイラストは、時にモッサリ風で漠としている他の画家の絵(=あくまで私個人の印象)とは全く異なるオーラを放っている。そのあたり山本淳夫が解説の中で的確な分析をしており、ホンの一部だけど重要な部分を図録テキストより抜粋して紹介。



 他の二者⦅注:(銀) 古沢岩美と永田力のこと⦆が茫洋としたほの暗い画面により、都会の闇で起こる猟奇的な世界観を表現しているのに対し、横尾の作品は切れ味の鋭い線描と鮮やかな色面による明晰さが際立っている。さらに、必ず小説のタイトルを毛筆体で画面に書き入れているのも、他と大きく異なる点である。 

 

 挿絵を構想するにあたり、横尾は小説を通読するのではなく、ランダムにページを開き、目に飛び込んできた断片的な語句から、自由にイメージを膨らませていった。




まだ一度もヨコオによる『乱歩全集』提供イラストをご覧になった事がない方のため、サンプルを一点お見せしよう。初めて私が講談社版の『乱歩全集』を読んで以来、最も脳髄に取り憑いて離れなかった挿絵がこれだ。


           

              「暗 黒 星」( © 横尾忠則 )


名探偵明智小五郎をして「胸の中に美しい焔が燃えている感じだ。その焔が瞳に映って、あんなに美しく輝いているのだ。」と言わしめた美青年・伊志田一郎。張り付いたような薄気味の悪いニヤケ顔、そして意味不明な片目の充血が効果的。画家のサインが〝ハンコ〟という日本人ならではの遊びもイカしている。




ここに収められている二十点のイラスト以外にも、ヨコオが『乱歩全集』広告のために制作した図版が存在するのだが、この図録には殆どピックアップされていないのが非常に惜しい。それらも見たいのであれば、例えば大判の画集『横尾忠則グラフィック大全』(講談社/1989年刊)がある。ポスター/マッチ/レコード/化粧回し/ドラマのOP映像/書籍/服/オブジェ/買物袋/舞台セットetcetc・・・すべて書き並べるのが大変なくらい様々なモノをデザインしてきた彼の主要作品が網羅された、横尾忠則のことが好きならば必携の一冊だ(現在は古書でしか入手できない)。70年代のヨコオはまさに(時代のポチになるのではなく)完全に時代をポチにしていた。


            

              『横尾忠則グラフィック大全』



(銀) 『横尾忠則の恐怖の館』展の開催は今月(20222月)27日まで。図録は通販サイトでも購入でき、希望すればヨコオのサインを入れてもらう事もできる。ただ配送方法がヤマト宅急便しか使えないらしく、通常より送料が高くつく。ネコポスや日本郵便のレターパックも使えるよう、そこだけは改善してほしい。

  

 

今日は『江戸川乱歩全集』の話に偏ってしまったが、それ以外にも図録には60年代から今世紀に至るまで、ヨコオが制作してきたオブスキュアなイラストやペインティングの数々がズラリと並ぶ。最後のページには、ヨコオが全装幀を手掛けた林不忘・谷譲次・牧逸馬『一人三人全集』(河出書房新社/1969年刊)より、彼が挿絵も担当した牧逸馬の巻からイラストが一点セレクトされている。



ここでいう講談社版『江戸川乱歩全集』とは函入り単行本の事であって、同じ講談社の本でも『江戸川乱歩推理文庫』は含まれない。これから古書で集めたいと思う方はお間違えなきよう。