「虫」「押絵と旅する男」「猟奇の果」「魔術師」「盲獣」
「鬼」「黒蜥蜴」(×2)「人間豹」「石榴」
「暗黒星」「地獄の道化師」「幽鬼の塔」「偉大なる夢」(×2)
▣ 他の二者⦅注:(銀) 古沢岩美と永田力のこと⦆が茫洋としたほの暗い画面により、都会の闇で起こる猟奇的な世界観を表現しているのに対し、横尾の作品は切れ味の鋭い線描と鮮やかな色面による明晰さが際立っている。さらに、必ず小説のタイトルを毛筆体で画面に書き入れているのも、他と大きく異なる点である。
▣ 挿絵を構想するにあたり、横尾は小説を通読するのではなく、ランダムにページを開き、目に飛び込んできた断片的な語句から、自由にイメージを膨らませていった。
まだ一度もヨコオによる『乱歩全集』提供イラストをご覧になった事がない方のため、サンプルを一点お見せしよう。初めて私が講談社版の『乱歩全集』を読んで以来、最も脳髄に取り憑いて離れなかった挿絵がこれだ。
「暗 黒 星」( © 横尾忠則 )
名探偵明智小五郎をして「胸の中に美しい焔が燃えている感じだ。その焔が瞳に映って、あんなに美しく輝いているのだ。」と言わしめた美青年・伊志田一郎。張り付いたような薄気味の悪いニヤケ顔、そして意味不明な片目の充血が効果的。画家のサインが〝ハンコ〟という日本人ならではの遊びもイカしている。
ここに収められている二十点のイラスト以外にも、ヨコオが『乱歩全集』広告のために制作した図版が存在するのだが、この図録には殆どピックアップされていないのが非常に惜しい。それらも見たいのであれば、例えば大判の画集『横尾忠則グラフィック大全』(講談社/1989年刊)がある。ポスター/マッチ/レコード/化粧回し/ドラマのOP映像/書籍/服/オブジェ/買物袋/舞台セットetc、etc・・・すべて書き並べるのが大変なくらい様々なモノをデザインしてきた彼の主要作品が網羅された、横尾忠則のことが好きならば必携の一冊だ(現在は古書でしか入手できない)。70年代のヨコオはまさに(時代のポチになるのではなく)完全に時代をポチにしていた。
『横尾忠則グラフィック大全』
(銀) 『横尾忠則の恐怖の館』展の開催は今月(2022年2月)27日まで。図録は通販サイトでも購入でき、希望すればヨコオのサインを入れてもらう事もできる。ただ配送方法がヤマト宅急便しか使えないらしく、通常より送料が高くつく。ネコポスや日本郵便のレターパックも使えるよう、そこだけは改善してほしい。
今日は『江戸川乱歩全集』の話に偏ってしまったが、それ以外にも図録には60年代から今世紀に至るまで、ヨコオが制作してきたオブスキュアなイラストやペインティングの数々がズラリと並ぶ。最後のページには、ヨコオが全装幀を手掛けた林不忘・谷譲次・牧逸馬『一人三人全集』(河出書房新社/1969年刊)より、彼が挿絵も担当した牧逸馬の巻からイラストが一点セレクトされている。