2021年12月2日木曜日

『科学小説』創刊号

NEW !

おめがクラブ
1957年11月発売



★★★    二号までしか発行されなかった伝説のSF同人誌



(今回取り上げる『科学小説』の裏表紙には〝おめがくらぶ〟と表記してあるのだが、世間一般では〝おめがクラブ〟と書く場合が殆どなので、後者に準拠する。)

渡辺啓助・今日泊亜蘭・矢野徹が主要メンバーとなり、日本でもかなり早い時期に結成されたSF同人グループが〝おめがクラブ〟。彼らが発行した同人誌がこの『科学小説』で、創刊号は250部発行。第二号まで出したものの、1960年代に入ると〝おめがクラブ〟は解散してしまう。

 

 

渡辺啓助邸は〝おめがクラブ〟の梁山泊状態だったらしく、天瀬裕康/渡辺玲子による啓助評伝『カラスなぜ啼く、なぜ集う』を読んでみると、出入りしていたのは今日泊亜蘭・矢野徹の他に渡辺剣次/阿部主計/大坪砂男/都筑道夫/宇野利泰/日影丈吉/夢野海二といった探偵小説界の面々、SFサイドでは星新一/柴野拓美らがいたそうな。『科学小説』創刊号のクレジットに目を向ければ、事務所には調布嶺町の渡辺邸住所が記され、カットを担当しているのは啓助の娘・渡辺東。編集委員には主要メンバー三人 夢座海二/丘美丈二郎/潮寒二の名がある。

 

 

本誌について「これは新型式の展示誌である」と提起しているのが面白い。要するに、日本国内でもっとSFを普及させるため「ここに掲載した小説(or アイディア)をもしよかったら一般商業雑誌・演劇・映画・ラジオ・テレビ等で是非購入しませんか?」と言っているのだ。実際、いくつかは狙いどおり商業媒体から引き合いがあったのだから、〝おめがクラブ〟自体は短命でも、それなりの成果はあったと言えよう。

 

 

創刊号に掲載されている作品はこんな感じ。

「ミイラは逃走する」渡辺啓助

「誘導弾X5号と二匹の小猿」矢野徹

「完全な侵略」今日泊亜蘭

「〝ホモ・ハイメノプテラ〟」潮寒二

「電波公聴器」丘美丈二郎

「人工子宮(原名「母」)アルフレッド・コッペル/永谷近夫(訳)

「科学随筆 万が一の脅迫」浅見哲夫

「惑星一一四号」夢座海二

 

 

ついでに参考まで、創刊号で予告されている第二号の内容はこちら。

― スリラー特集 ―

「自殺用ベッドは月賦で」渡辺啓助

「空中屍体置場」夢座海二

「テレビは七円五十銭」矢野徹

「怪 物」今日泊亜蘭

「廻転木馬の眼」潮寒二

「北海の涯で」埴輪史郎

(その他、丘美丈二郎・川野京輔・柴野拓美の諸作品を予定)

 

 

 

(銀) 掲載されているSF作品がそれほど私の好みでもなくて、高評価にはしなかったけれど、戦後になり、日本でも探偵小説という大木の幹から新たなジャンル〈SF〉の枝がすくすくと育ちつつある状況を確認することができる貴重なドキュメントがここにはある。 



〝おめがクラブ〟については『「新青年」趣味ⅩⅦ  特集  大下宇陀児』にて浜田雄介が「渡辺啓助追跡(3)」の中で、渡辺家に遺されていた〝おめがクラブ〟の日誌ノート「Tagebuch」の中身を紹介しているので、これも要注意。またネット上では〝おめがクラブ〟の Wikipedia も存在しているようだが、書き手は峯島正行『評伝・SFの先駆者 今日泊亜蘭』を参考にしているみたい。