⑪ 「打續く惨劇」(1)~(7)
【注意!】現在、連続企画としてテキストの異同を中心としたこの長篇の検証を行っていますが一部のネタバレは避け難く、「覆面の佳人」(=「女妖」)の核心部分を知りたくないという方は、本日の記事はなるべくお読みにならない事をお勧め致します。
【この章のストーリー・ダイジェスト】
▲ 「打續く惨劇」(1)~(7)
木澤由良子が春日邸に預けられた翌朝、今度は春日龍三が寝室のベッドの上で心臓を抉られて死んでいた。邸内の者に事情聴取が行われ蛭田紫影検事が血の付いた片方の皮手袋を示し、これに見覚えがないか執事に訊ねたところ、「それは成瀬珊瑚子爵のものだ」という証言を得る。さらに蛭田は「前日に春日邸を訪れた千家篤麿という人物が成瀬子爵の変装姿ではなかったか」と重ねて執事に質問を投げかける。
以下は「打續く惨劇」の章にて春陽文庫(上段)と『九州日報』(下段)のテキストが明らかに一致しない箇所を拾い出したもの。
A 扉をノックするとすぐに (春) 306頁9行目
扉を叩(ノック、とルビあり)すると直(すぐ)に(九)
B おい、みんな来てくれ (春) 308頁2行目
オイ、皆(みな、とルビあり)来てくれ(九)
C 床に上に落ちた。(春) 309頁1行目
床の上におちた。(九)
D 赤黒い血の塊が (春) 309頁4行目
赤黒い血の固まりが(九)
E 関連があるとすれば(春) 310頁6行目
関聯があるとすれば(九)
F あまりにもめまぐるしい(春) 310頁8行目
あまり目ま苦しい (九)
G 警察の人びとばかり。みな一様にじっと(春) 312頁13行目
警察の人々ばかり皆一様に、凝つと (九)
H ひどくびっくりなされたご模様で (春) 314頁16行目
ひどく吃驚(びっくり、とルビあり)なされた御模様で(九)
I 木沢由良子でございます。(春) 317頁10行目
澤木由良子でございます。(九)
J 暗い顔をしてそっぽを向いた(春) 318頁2行目
暗い顔をして外方を向いた (九)
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K ええ、それは存じておりました(春) 319頁9行目
ゑゑ、それは存知て居りました(九)
L 判事は訝しげに眉をひそめた (春) 319頁14行目
判事は審(いぶか、とルビあり)しげに眉をひそめた(九)
M あなたはいままでどこにいられたのですか(春) 321頁2行目
あなたは今迄何處にゐられたのですか (九)
底本どおり〝いられて〟としていて大変結構なのだが、
こういう箇所こそ〝おられたのですか〟へ書き換えるべきではなかったか。
N 由良子はようやく涙を干しながら (春) 322頁6行目
由良子は漸く涙を干(ほし)ながら(九)
O 春日さまのご寝室の窓と思しい所から (春) 323頁3行目
春日様の御寝室の窓と覺(おぼ)しいところから(九)
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春巣街の死美人は舞台の場に戻りたいから春日家を出たというけれど、物心もつかぬうちに娘の由良子を手放してしまうぐらいなら、どうして春日家に由良子を置いてこなかったのか不思議だ。その方が自分も好き放題できるし、由良子も片親とはいえ孤児にならずにすんだのに。そんな不幸な木澤由良子だが、お暇な方は以前の章③⑥あたりの描写をもう一度読んでみると、微妙な彼女の変化に気付いて面白いと思う。
もし本作が本格長篇だったら「ここでレッドヘリング噛ましてるな」と突っ込める章なのだが、全然本格でもないし、作者の書き方にしても一般読者を意識してわかりやすくしすぎてるから、あまりレッドヘリングの意味は成してないかも。多少なりともミステリ風味を持たせた日本の連続ドラマでも、最終回の直前には真犯人ではない登場人物に視聴者の目を向けさせて大詰めで騙す、みたいなことをよくやっている。詳しくは書かないけど本作の場合、もっとしっかり大団円まで謎は丁寧に隠しておかなくちゃ。
⑫へつづく。