① 「雪中の惨劇」(1)~(10)
【チェックに当たっての決め事】
作者自ら『九州日報』掲載時に実践したと思しき「改稿」や、春陽堂編集部の「言葉狩り/語句 改変」といった、明らかに両者が一致しない箇所があれば拾い出すのは勿論だが、「旧仮名遣い → 現代仮名遣い」「旧漢字 → 現代流漢字遣い」への変換は無視する。春陽堂書店は漢字を開いたり、擬態語(例:わなわな/すらすら etc)をカタカナ → ひらがなへ変換したり(その逆もある)、そういった事を訳もなく頻繁に行うので、全部ピックアップしてたら埒が明かないから、目に余ると思った箇所だけ拾うつもり。
この「女妖」記事冒頭では毎回、各章あらすじのダイジェストを冒頭に記す。前回の記事(⓪)に載せた作者の言葉どおり、パリが舞台なのに登場人物の名前は日本人という、いかにも明治の黒岩涙香スタイルを意識した小説になっている。
▲ 「雪中の惨劇」(1)~(10)
以下は「雪中の惨劇」の章にて春陽文庫(上段)と『九州日報』(下段)のテキストが明らかに一致しない箇所を拾い出したもの。
A 不意を食らった鷲塚巡査(春) 3頁10行目
不意を喰つた鷲塚巡査 (九)
B 黒い中折帽を目深に冠り(春) 3頁13行目
黒い中折帽を眉深に被り(九)
春陽文庫は「被る」が全て「冠る」にされているようだ。
C 男装女子としか思えない(春) 3頁16行目
男装女子としか思えぬ (九)
D 左側に当たる家の一階の窓から(春) 4頁12行目
左側に當る家の二階の窓から (九)
これはその後の展開から、春陽文庫のほうが間違っているのがわかる。
E すぐ左側にある部屋の扉を開けた (春) 5頁15行目
●
早くしないと又荒れ出しますよ (九)
G いましも息を吹き返した男のほうを(春) 7頁5行目
今しも息を吹返しかけた男の方を (九)
H どことなく昔の美貌の跡が(春) 7頁11行目
何處やらに昔の美貌の跡が(九)
I 紳士というも恥ずかしくない (春) 8頁8行目
紳士といふも耻(ママ)かしからぬ(九)
J 安藤婆さんがごてごてと(春) 9頁11行目
安藤婆さんがゴトゴトと(九)
警察へ電話をしに行っていた安藤婆さんが戻ってくるシーンから
●
それを君に進(あ)げよう(九)
L そうたやすく分かるかどうか(春) 14頁1行目
さう容易く分かるや否や (九)
M 馬鹿か狂人か(春) 17頁15行目
馬鹿か狂人か(九)
〝 狂人 〟のワードは春陽文庫でもそのまま生かされている。
N 二人の間の言い争いは(春) 19頁13行目
二人の間の言葉爭ひは(九)
O 彼の敏腕がそうさせているからである(春) 19頁17行目
死ぬまでその争闘をゆるめやうとはしなかつたであらう (九)
Q 毒を含ませた針を持ち、傍らで聞いている者に(春) 21頁14行目
毒を含ませ針を蔵し、傍らに聞くものをして (九)
R いまパリ社交界随一の (春) 27頁5行目
今パリー(ママ)で交際社會随一の(九)
パリは『九州日報』では、巴里だったりパリーだったり表記が揺れている。
S 二十七、八くらいの頑丈そうな(春) 29頁7行目
二十七歳位の頑丈さうな (九)
T 「えっ?」 (春) 30頁11行目
「之?」(これ、とルビあり) (九)
これは明らかに『九州日報』のほうのミス。「え?」を之と間違えたのだろう。
U 参っていたところなので(春) 32頁5行目