2021年7月11日日曜日

『悪の比重』島村喬

NEW !

日本週報社
1960年12月発売


★★      島村喬 = 百瀬三郎 ?



内容をよく確かめずに古書を買って、運悪く〝ハズレ〟を引いた例がコレ。現物を手に取れない通販ならば仕方がないけれども、何年も前に古書店でまとめ買いをした時、全然時間が無くて急ぎで会計しなければならなくなり、タイトルと奥付を一瞬見ただけで「これは二度と再発されなさそうな胡散臭い探偵小説に違いない」と早合点してしまった。

 

 

著者の島村喬については何も知らない。戦争に関するノンフィクション本を出している事、百瀬三郎という別のペンネームでも著書があるらしいという事、そんな程度だ。『探偵雑誌目次総覧』を眺めたが、島村喬百瀬三郎どちらもヒットする作品が見つからない。今回取り上げる『悪の比重』が探偵小説っぽい内容だったらもう少し調べたかもしれないが、あまり深追いしたくなる気持にもならず。


                   

                  


この長篇の主役は日銀の地下に眠っている、軍部が戦時中日本人から供出させたダイヤモンド。昭和30年代の相場にして八千三百万ドル、その個人所有者なきダイヤを米国に売り捌く事で発生する莫大なリベートを得ようとハイエナ達が暗躍する長篇小説。

 

 

🔳 星野省蔵     

日本一の宝石商。裏でナイトクラブを経営し、政界とも人脈があるダーティーな実力者。

🔳 蜂谷辰治     

星野とヘクトの仲立ちとなる国内の宝石ブローカー。

🔳 ジョン・ヘクト       

米国の大物宝石ブローカー。

 

 

🔳 江藤伸      

元は普通のサラリーマンだったが警察に無実の罪を着せられ人生が狂う。八年の刑を経て、今は冷血な殺し屋に変わってしまった。クライマックスを〆るのはこの男。

🔳 古河得武

情報屋。日銀地下のダイヤ売却ネタをいち早く掴み、関係者に接近しまくる。

🔳 戸部        

『朝陽新報』青年記者。めぐみと付き合っている。

🔳 有吉めぐみ     

有吉勇太郎の娘。『朝陽新報』婦人部記者。

 

 

🔳 影山        

赤坂一帯を仕切っている裏社会のボス。三十七、八歳で誰も彼の過去を知らない。

🔳 篤子        

影山の店の、まだ二十を過ぎたばかりのマダム。蜂谷とねんごろになるよう送りこまれる。

🔳 麦子        

ナイトクラブで働く江藤の恋人。カラダ目的ではない愛情を注がれている。

 

 

🔳 有吉勇太郎    

保守党総裁以上の力を持ち、財界とも繋がりが深い。

🔳 萬谷古志朗        

汚職まみれの代議士。有吉勇太郎の腹心。

 

 

探偵小説の味わいは無く、一種のピカレスク的な群像劇。私の好む内容じゃなくて残念だった。大藪春彦とか好きだったら楽しめるかも。ただ書き方が雑なんで安っぽい感じはする。


                   


(銀) こういう再発される見込みが無さそうな戦後貸本時代の古本をヤフオクで森英俊が「入手困難なB~C級ミステリ」とか言って転売しまくっているのは周知の事実。『悪の比重』など市場で見かけないぶん正に森の転売の標的にされそうな本だが、実際はここに書いたようなピカレスクだったり単なるアクション・スリラーに過ぎないものが殆どで、無理くり広義な範疇のミステリではあるかもしれないが探偵小説だとは思えない。森に釣られてヤフオク転売本に何万も浪費するのは愚の骨頂。