A 「新青年」って探偵小説オンリーじゃないからな。この前ちくま文庫に入った獅子文六の『金色青春譜』なんて今回の企画展開催に合わせて発売されたようなものだし、スポーツにも注目する構成はいよいよ間近に迫ってきた東京2021を多少意識してる感じがする。いやまったく、どうなるんだろうな、今年のオリンピックは。この図録には載ってないけど戦前に笠置山というインテリの力士がいてさ。「新青年」に寄稿したり、ちょうど双葉山が無敵の連勝記録を伸ばしていた時には、双葉山を攻略するための研究文を雑誌に発表したってんだから、今じゃ考えられないだろ?
B 文筆家の力士がいたんですか? 増井山が歌手として売れて人気あったのは知ってますが。いまや殆どオワコンですけど、「新青年」の頃が大相撲の一番幸せな時代だったみたいですね。話を戻すと、この図録の50ページに載っている各国フィギュアスケート女性選手の写真の中で、一人だけ子供が紛れ込んだような風情の日本代表・稲田悦子がすごく浮いてます。ファッションでいうと、やっぱ中村進治郎ですか。探偵作家以外で顔写真が載ってるのは彼だけ。この写真、ホームズみたいにパイプを咥え英国紳士が着そうなガウンを羽織ってるのが流石。
A 彼は探偵作家じゃないから探偵小説を書いてないんだけど、博文館の他にも映画や実話系の雑誌などあちこちに読み物記事を結構書き散らかしているんだよ。進治郎の書いたものを集めて一冊の本にしてくれないかな・・・と前から思ってるんだが、それを実現してくれそうな人はなかなかいないね。
B 個人的に気になったのは、27ページ左上に編集長時代の一枚として掲載されている水谷準の写真でして。準はともかく、その左に並んで写っているのは横溝正史と書いてあるんですが、これってホントに横溝ですか?
A 正史には見えないよな。準の編集長時代といっても期間が長いし、撮影した年月が書いてないから推測するしかないけども、この写真の準はどう見ても戦後の外見っぽいね。戦前の準はまだこんなふっくらした顔付きじゃないもの。となると敗戦後の準はパージにかかってるから、この〝編集長時代〟というキャプションも疑わしい。左側の男性は正史ではなく、戦後の「新青年」編集長を任された弟の横溝武夫じゃないの?この写真は準の御遺族の方が提供して下さったそうだけど、同じ横溝姓だもんだから武夫と正史を取り違えたのかもしれない。
B 我々がよく知っている好々爺としての笑顔に比べると、戦前の正史の容貌って細面で全然違うから、ボーッとしてると見落としてしまいがちなんですよね。その上、横溝武夫の顔ともなると頭に浮かばないですし。今回の企画展の特徴ですが、戦後の「新青年」も展示の対象になっています。約70ページの図録に手際よく「新青年」の概要が紹介されて900円だから、早めに買っとくほうがいいでしょうね。ヤフオクで三倍の値段で売ってるバカ・そしてそれを買うバカがいるみたいですけど、そういうのには決して手を出さないように。