2021年3月21日日曜日

『大乱歩展記念講演会/小林信彦「乱歩の二つの顔」』

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神奈川近代文学館 デジタル文学館
2021年3月公開



★★★     17分のアーカイヴ音源




2009年秋、神奈川近代文学館にて「大乱歩展」が開催され103日(土)午後2時オープニングトークショーのゲストとして小林信彦が登場した。その日のレポートは当blog 202079『森繁さんの長い影』(小林信彦)の記事に書いておいたが、あの時のトーク音声をまさか神奈川近代文学館がwebサイト上にて公開するとは思わなんだ。小林側もよくOKを出したな。だって前述の記事に書いたように、小林が壇上で喋っている時に(かなりの間)約一名のうすら馬鹿なオヤジが発する大イビキがホール中に響き渡り、そりゃあもう静寂の中の地獄絵図みたいだったんだから。

 

 

このweb音源を聞いてみると、upされたのは約90分の講演時間のうち約1/6,つまりたった17分程度。江戸川乱歩によって『ヒッチコック・マガジン』編集長に取り立てられるキッカケから急に音声が始まり、雑誌作りのやりとりを乱歩邸で行う際のエピソードやら馘を通達される話、小林から見た乱歩と松本清張の関係、晩年の乱歩の悲哀、今回聞くことができるのはこういった話題。聴衆の笑い声もかすかに聞き取れる。

 

 

普通の人はこの17分のトークを聞いて「おお~」と喜ぶのかもしれないが、乱歩についても小林信彦についてもある程度知り尽くしている人間からすると、これまでの小林著書に書かれてきた以上の初公開ネタは無い。本当は宇野浩二の事とか話したかったらしいのだが、どういう聴衆が聞きに来るかわからないのでマニアックなネタは一切控えたみたい。あの場では、当時都知事だった石原慎太郎の「慎太郎ミステリ」についてちょっと言及しようともしていたが、その「慎太郎ミステリ」は今日に至っても盛り上がりそうな気配は無い。(作家・石原慎太郎が再評価される日なんて来るかね?)

 

 

小林がどんな話をしていたにしろ、さすがに例の大イビキが鳴り響いている部分は跡形も無くカットしているので、この音声だけ聞いた人は小林が終始楽しそうに話していたものと誤解してしまいそう。今回の音源はブツ切りをつなぎ合わせた感じには聞こえないけど、全体の90分から都合の悪い部分を排除しただけではなく、実際使えそうな部分を編集しているような気がする。こんな事ならあの場でトークの全編を録音しておけばよかったかな。

 

 

 

(銀) あれから10年程経っているので懐かしくもあったが、このトーク音源を公開したのは(あの時の小林信彦の気持を考えると)ちょっと可哀想。あと改めて思ったのだが小林ひとりにずっと喋らせるのではなくて、神奈川近代文学館長を当時務めていた紀田順一郎が聞き役になっていれば、より望ましい内容になったかもしれない。「大乱歩展」そのものは、2004年に池袋東武百貨店にて立教大学の仕切りで行われた「江戸川乱歩と大衆の二十世紀展」と比べてはるかに素晴らしい内容だった。



え~、よそのブログでは関連サイトへすぐ移動できるリンクを文中に張っておられますが、私のところは不便さが売りであります。神奈川近代文学館のHPへ行けるリンクも本来ならば張っておいたほうがどなたにも便利なのですけれど、そのリンク先であるデジタル文学館上の音源もいつかは儚く消されてしまう運命でしょう。誠に御手数ですが、ご自身でググったりしてデジタル文学館の場所を見つけて下さいませ。