2016年7月11日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
論創ミステリ叢書 第99巻
2016年7月発売
★★★★ 次の巻で論創ミステリ叢書100巻到達
▲「黒門町伝七捕物帳」
捕物作家クラブ所属の作家達が大挙して執筆したシリーズのうち、横溝正史の筆による「江戸名所図絵」「雷の宿」「通り魔」「船幽霊」「宝船殺人事件」「幽霊の見世物」を収録。こういう短篇が、後に正史個人のシリーズ「人形佐七捕物帳」へ焼き直しされるのはいつものパターン。
▲「お役者文七捕物暦」
このシリーズは02~03年に徳間文庫から全五巻の形で発売されたが、あちらは改稿後の単行本ヴァージョン。本巻収録の「比丘尼御殿」「花の通り魔」「謎の紅蝙蝠」は、初めて単行本に収録される原型初出誌ヴァージョン。改稿前と後では頁数が全然違う。
▲「しらぬ火秘帖」
戦前の『講談雑誌』に発表した同名の短篇を、戦後またまた長篇に再利用し『少年少女譚海』に執筆。豊臣対徳川が対峙したのちの世、七枚の永楽銭の運命の下に集結するという、いわば「真田十勇士」を思い出させなくもない物語なのだが、雑誌廃刊にて中絶、16回連載しながら、その後を書き足すなど単行本化で救済されることもなかった不運な未完作。
本巻のどこかに水谷準の瓢庵先生が一瞬現れるシーンが。〝通〟な読者は見落さぬよう。
次巻でこの論創ミステリ叢書もめでたく100巻を迎える。
覚えている人がどれ位いるかわからないが、初期の配本は毎月刊行ではなかった。
地味な出版社だし、黒字になっているとは思えないこの叢書を、
どうやってここまで続けられているのか不思議でしょうがない。
(銀) 今までにも正史の単行本未収録作を拾い上げる本は散々出されてきたが、それでも全てフォローできず、論創ミステリ叢書だけで(2020年現在)五冊も使っている。同じ落ち穂拾いとは言え、元のヴァージョンが楽に読める作品の改稿ヴァリアントにも少し厭きてきた。決して別ヴァージョンとの比較が嫌いな訳ではないけれど、あまりにも正史の場合はヴァリアントが多すぎて閉口してしまう。
本叢書で最初の『横溝正史探偵小説選』だった第35巻『Ⅰ』の時、「他の作家よりもかなり売上が良かった」と論創社は言っていたが、本巻はすべて時代ものでもあるし、私だけでなく世間的にも、正史だからといって前の巻の時ほど盛り上がっているようには見えなかった。