2016年11月1日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
皓星社 末永昭二(編)
2016年11月発売
★★★★★ 世相を映す当時の雑誌のように
❛ エロ・グロ・ナンセンス ❜という言葉が指し示す時期は大抵昭和3~6年あたりだと云われるが、編者・末永昭二は当時の雑誌を眺めてみて大正末期から昭和8年までと解釈。それはまさに挿絵画家・竹中英太郎の主要な活動期間ともなんとなく重なってくる。
第三巻はコント・小噺やエッセイの類も収録して、単なる探偵小説アンソロジーではなくモダンと爛熟の〝世相〟を映し出す一冊の雑誌的な構成と相成った。
▲「化けの皮の幸福」 水谷準
▲「ねえ!泊まってらっしゃいよ」 横溝正史
▲「だから酒は有害である」 徳川夢声
三篇とも、なんということもない小品。
▲「復讐の書」渡辺文子
自分的に本巻の注目作。主人公と残忍な山窩の血を引く女との、愛憎と呪詛が渦巻く一篇。
▲「嬲られる」三上於菟吉
同面異人の恐怖。こちらの方が江戸川乱歩「猟奇の果」よりも半年前に発表。
於菟吉のつけた結末のオチや如何に?
▲ 「奇怪な剥製師」大下宇陀児
都下は丸ビルの片隅で奇蹟の手術を行う怪人・漆戸安茂。
ですます調で残虐味を盛り上げるスリラー、終盤語り手の身に恐るべき災難が・・・。
▲「世界人肉料理史」中野江漢
徳川夢声同様に広義の探偵小説の範囲外、
これは小説ではなく、人肉喰いの史実話。伏字多し。
英太郎のエキゾティックな絵は、実に味がある。
▲「南郷エロ探偵社長」山崎海平
▲「きっと・あなた」 左手参作
週刊誌上での小説コンテスト投稿入賞作。前者はたいしたエロ味もないドタバタ劇。
この作にはもったいないほど力の入った英太郎の挿絵は原画起こしで見たかった。
本叢書では今のところ原画が生き残っているものでもそれを借りて使うことはせず、
雑誌からスキャンしているようだ。
後者はハルビンでの日支密偵戦における支那娘との慕情。
▲「穴 -踊子オルガ・アルローワ事件-」群司次郎正
本巻では満洲・大陸もしばしば顔を出すテーマ。これもそのひとつ。
▲「豚と緬羊」石浜金作
排泄物記述が多くて食欲が失せる。主人公が〝人間椅子〟ならぬ身を窶したものとは?
▲「のぞきからくり」水谷準
準らしいキビキビした語り口ながら、彼らしくない素材の〝窃視〟がここでも登場。
(銀) 挿絵叢書は四冊目に横山隆一、そのあと 高井貞二 → 茂田井茂と一冊ずつ出て、編者はその後もまだ続けたかったようだが、刊行は六冊で止まってしまった。他には類を見ないアンソロジーだと思うけど、竹中英太郎なら需要があってもそれ以外の画家だと世間の関心がイマイチなのかな?
英太郎となるべくイメージが被らないような画家にするべく、後続に横山隆一/高井貞二/茂田井茂の三人を選んだのだろうが、彼ら(の絵)はもしかすると一般読者にはマニアックというかクセが強かったのかもしれないな。