第二巻は頁数も増え、巻頭カラー口絵には江戸川乱歩最初の個人全集(平凡社)各巻附録だった小冊子『探偵趣味』表紙画が。また、竹中英太郎の画風変遷が前巻よりも捉え易くなっている。小説・挿絵ともにレア度数がアップしたのもgood。
▲「火を吹く息」大泉黒石
その出自から露西亜文学者として扱われるが、怪奇小説も書いている人。江戸川乱歩「陰獣」と同じ昭和3年9月発表だが、英太郎の絵は『クラク』『新青年』に登場する以前の初期型タッチ。英太郎の画集や特集雑誌では、この初期型タッチの挿絵は収録される機会がなかなか無い。
▲「桐屋敷の殺人事件」川崎七郎 ▲「芙蓉屋敷の秘密」横溝正史(ギ)
「桐屋敷の殺人事件」における川崎七郎という作家名が正史のペンネームだという推測の根拠は本書285頁を見よ。世に流布されてきた江戸川乱歩「陰獣」逸話とは違って英太郎の『新青年』初仕事は実はこの「桐屋敷の殺人事件」。しかも未完のまま放りだした「桐屋敷の殺人事件」を再利用したのが「芙蓉屋敷の秘密」というから、ホントに若い頃から自作のリサイクルが好きな正史だ。
▲「渦巻」江戸川乱歩 ▲「地獄風景」江戸川乱歩(ギ)
「渦巻」はよほどの乱歩ファンでなければ御存知ないのも無理はない。乱歩の戦前の友人・井上勝喜に名を貸して書かせた代作だもの。そんな継子扱いの作品ゆえ上記の「桐屋敷の殺人事件」と「渦巻」は長い間、正史と乱歩それぞれの単行本に入ることも無かった。
オドロオドロしさ/静寂さ/キッチュさの演出を描き分ける英太郎の筆さばきが見事。
▲「魔人」大下宇陀児(ギ) ▲「R灯台の悲劇」大下宇陀児
(乱) 「大江春泥作品画譜」は本書に未収録だが、『名作挿画全集』全十二巻そのものが附録冊子『さしゑ』と共に大空社より復刻されたし(但し、とてつもない価格の図書館本ゆえ、戦前のオリジナル本を古書で集めたほうがお得)、藍峯舎の豪華本『完本 陰獣』にも収録された。