2021年1月24日日曜日

『近代出版史探索』小田光雄

2019年10月27日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創社
2019年10月発売




★★★     700頁のうち半分程は探偵・幻想小説に言及した
          作家+出版人+出版社の秘められし逸話





本好き、とりわけ重度の古書中毒者でないと理解しにくい昭和以前の作家~出版人~出版社に 纏わるあまり知られていない書誌的エピソードを著者・小田光雄が掘り起こしてゆく一大評論。 ここに収められた文章は著者のweb連載における「古本夜話」というパートがオリジナル。  (ちなみに著者がゾラの翻訳もしているという事は世間で知られているのだろうか)

 

 

700頁以上/全項目数200にも亘るため登場する全固有名詞をとてもここで紹介できないので、私の興味を引いたもののみに限定させて頂くがご了承願いたい。

 

 

『奇譚クラブ』『裏窓』『あまとりあ』『マンハント』村山知義梅原北明坂本篤倉田啓明武侠社「平凡社版世界猟奇全集」南方熊楠江戸川乱歩岩田準一矢野目源一南柯書院平井功松村喜雄花咲一男平井蒼太春秋社夢野久作森下雨村「改造社版世界大衆文学全集」渡辺温松本泰コナン・ドイル黒岩涙香春山行夫「近代社版世界短篇小説大系」『文壇照魔鏡』『騒人』「筑摩書房版大正文学全集」(未刊)/   大泉黒石麻生久窪田十一木村毅エミール・ゾラ武林無想庵成光館井上勇

 

 

これだけ挙げても全体の半分程度にも過ぎず、とても内容を知りたい方の参考にはならない。 けれども上記の固有名詞を見て察してもらえると思うが、本書は大なり小なり探偵・幻想系の 分野に700頁中の半分近く踏み込んでいるので、その筋の好事家は見逃すべきではない。    例えば『真珠郎』初刊本を発売した六人社〟を採り上げる項目があるが、こういうテーマだと金田一ミーハー目線から一向に抜け出せない横溝正史研究ではまず発生しないであろうから。

 

 

内容だけでなく見た目もドッシリしていてヘヴィーな外観だが、律儀に最初から読まずとも自分の興味がある項目から( or だけを)読むことができるので読む疲労感は意外に少ない。   但し、一言申したい点はある。

 

 

 この手の書物は特に正確でなきゃいけないと思うし、著者は謙虚に執筆に取り組んでいると信じたいが、319頁で平凡社『現代大衆文学全集』全60巻中ひとりで三巻も出た作家として  挙げているうち国枝史郎と大佛次郎は正しいけれど、それ以外は江戸川乱歩ではなく白井喬二・吉川英治・本田美禅では? 最近の論創社の出す本は信用ができないので、これ以外にも間違いが無いとは言い切れん。

 

 

 最初に書いたように、本書収録テキストは元々数年前にweb連載として発表されたもの。 本書のあとがきでは「単行本化にあたって加筆修正や削除は施しているけれど、これ以上大部にできないので残念ながら後日譚や新しい出版情報にはふれていない。」と筆者は記している。 それは仕方ないことだし問題ではない。

 

 

この本が出たのでweb上にあった文章はどうなっているのかを見てみたら、本書に掲載した分も相変わらずアップされたままだった。(言い忘れたが、著者は今でもwebでの連載をコツコツ 継続している)そりゃ本好きな人間は紙の本を喜んで買うかもしれないけど、       「webでタダで読めるからいいじゃん」って思って本書を買わずにネットで済ませる人がいても著者は困らないのかな?




(銀) 著者と編集者、誰が悪いのか知らんがミステリ関係以外の書籍でも間違いを無くせない論創社。皓星社もそうだけど、論創社もかなりのリベラ左派に染まっている様子で、    twitterを使ってさかんにつぶやいている社員(おそらく黒田明ではない)の話題は毎日毎日  自民党政権批判オンリー。それはそれで結構な事だが、他人を声高に罵ってばかりいて自社の 間違いだらけの本作りは改善する気が無いんじゃ、蓮舫とかと同じ穴の貉で所詮口先だけ。  保守側のいう事はすべて悪い/間違っているだとかリベラルなら何を言っても正しいとか、  一面的な考えしか出来ない人間は政治をやらせても出版業をやらせても、たかが知れている。