2021年1月16日土曜日

『時代小説盛衰史』大村彦次郎

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筑摩書房
2005年11月発売



★★★★    時代小説を通して見た大衆文学の歴史





ちょうど『怪奇探偵十一号室の怪 ― 今日泊亜蘭怪奇探偵小説集― 』を読み終わったところなのだが、全体の2/3の作がつまらんというか自分の趣味に全然合わなかったため、感想を書く意欲も湧かずネタを急遽チェンジ。で、もう十六年も前に出たものだが数日前に記事にした池田浩士『大衆小説の世界と反世界』においていまひとつ食い足りなかったものを補填する意味もあり、故大村彦次郎のこの本を取り上げる。
 

                    


これはいわば岡本綺堂「半七」野村胡堂「平次」横溝正史「佐七」佐々木味津三「右門」城昌幸「若さま」、いわゆる五大捕物帳の読書の入口になったりするガイドブックではない。時代小説を表向きにしてはいるが著者が明言しているように語るべき対象とする期間を、
 
中里介山「大菩薩峠」から司馬遼太郎の登場まで
雑誌『講談倶楽部』の創刊から終焉まで

に設定した日本の大衆文学ヒストリーと呼べる内容だ。時代小説とその作家ばかりでなく、探偵小説を含む非時代小説/作家の話も沢山盛り込まれ、『都新聞』『雄弁』『文藝倶楽部』『文藝春秋』『改造』『中央公論』『講談雑誌』『新青年』『苦楽』『サンデー毎日』『週刊朝日』『大衆文藝』『キング』『日の出』『モダン日本』など、雑誌・新聞の発表媒体から円本全集に至るまで、文学界裏話であふれかえっている。 

 

                   


別に時代小説には詳しくなくとも全然OK。勿論メジャーな時代小説や上に挙げた雑誌名などを知っていれば、より楽しめる。中里介山という人はタチの悪い偏屈な性格の持主だし、自分的に目に留まった小ネタは、〝 本位田準一は吉川英治「宮本武蔵」の笑われ役・本位田又八のモデルではないか 〟という噂があったということ。


 

 

巻末には人名索引と共に参考資料が記されており、筆者はあらゆる大衆文学史関連書籍、各作家の自伝、出版社の社史などを読み込み、そこから得た知識からネタをコラージュして本書を執筆したに違いない。言い方を変えれば膨大な引用から組み立てられた一冊であって、著者の引用元である全ての文献を熟知していれば、新しい知見は無いのかもしれない(私にとって中川右介『江戸川乱歩と横溝正史』が何のsomething newも無いのと同じように)。

 

 


だが幸か不幸か、私は時代小説について作品/作家名はある程度知っていても、実際どれだけ読んだ経験があるかと訊かれたら、ちっとも読んでないのだ。そんな自分のような浅い人間には特に、著者の ist / ism的な主張が無いぶん肩が凝らずに楽しめる本であった。




(銀) この本は2012年に上下巻セットのちくま文庫としてリイシューされた。ここに紹介した初刊の単行本が発売された2005年は街の書店状況が今よりまだマシで、あてもなく新刊コーナーを物色していたら偶然見つけた拾いもの。本書もそうだし、同じ頃出た小谷野敦の『谷崎潤一郎伝―堂々たる人生』もパラパラ中身を立ち読みして気に入った本で、自分がいつもチェックしているサイトだけ見ていたら気付かないままだったろう。



書店へ新刊をチェックしに行くこともほとんど無くなってしまった。探偵小説やミステリのジャンルでは発売されない面白い新刊をきっと私はいくつも見逃しているに違いない。藤原編集室HP「注目の近刊・新刊」に載っていないものでも自分にとって重要な本はあるということを再認識すべく、本書を取り上げた。