モーリス・ルブランが生み出したアルセーヌ・ルパンを日本に定着させた功績はこの人にあり。ホームズ翻訳者・延原謙にスポットを当てた本叢書・第32巻『延原謙探偵小説選』がそうだったように、ルブラン/ルパンを追っかけている人もそうでない人も、保篠龍緒とくればそっち方面の充実を望んでいるのでは?今回は保篠の巻『 Ⅰ 』『 Ⅱ 』併せてレビュー。
■ 小説篇 ■ ★★
矢野歩の解題でも指摘があるように保篠の創作は「物語や人物に深みがない」、これに尽きる。保篠訳ルパンが「べらんめぇ調」だという説は昔からあったが、昭和4年平凡社版の『怪奇探偵 ルパン全集』を以前通読した時には、そんな風には思わなかった。むしろ創作もの、特に長篇にその傾向が強くて、保篠自身が謎の提示と解決に関心を払っていないため、単なる講談調活劇というか〝チャンバラ〟でしかない。
■ 評論・随筆篇 ■ ★★
■ 総 評 ■ ★★
そして、そう言われる原因について今回の二冊を読んで納得した。文章に対するきめ細やかさが足りず、勢いだけで書いているように見える。逆に言えば、あれだけ現代を舞台にしている創作小説を時代劇まんまの調子で書いていながら、ルパンの翻訳ではよくルブラン原作の香りを残せたものだ。『 Ⅱ 』には保篠龍緒著作目録リストが付いているし、保篠の巻を買うなら『 Ⅱ 』から手を出したほうがよい。
(銀)論創ミステリ叢書は第101巻の『保篠龍緒探偵小説選 Ⅰ 』から、それまで総監修と解題を受け持ってきた横井司が退いた。私の想像だが、横井と同じく『新青年』研究会のメンバーで、2010年を過ぎた頃に論創社の編集者となっていた黒田明がいるので、日本探偵小説に関する書籍は黒田に任せたのか。
その結果、各巻にどの作家を取り上げるかを決めるのは黒田、作品選定と解題執筆は在野にいるその作家の専門家と呼ばれる人に任せる役割分担になった様子。で、保篠龍緒の場合は「ルパン同好会」の矢野歩が担当。第101巻以降の作家に著作リストが付くようになったのはありがたいけど、横井司の時には各巻の収録作品が過去にどの単行本やアンソロジーに収められていたのかキチンと書いてあってそれが便利だったのに、横井が外れてからはその慣習が無視されているのはちょっと困る。