2015年3月27日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
戎光祥出版 ミステリ珍本全集⑦ 日下三蔵(編)
2015年3月発売
★★★★★ 遅きに過ぎた、この男のリバイバル
数年前に発売を噂されながら、没。このミステリ珍本全集でも第一期に発売を予告されながら、これまた延期。いつまで経っても新刊本が出ず、長い長い間待たされた大河内常平。米駐留軍の事情に通じ、刀剣鑑定・軍装研究など特異な趣味を持つ男。彼の小説の主なイメージとして、〈刀剣などを材に採った伝奇ミステリ〉〈敗戦が生んだやくざ・チンピラを描く風俗ミステリ〉がある。
本書は刀剣を素材に書かれたもの(長篇「九十九本の妖刀」「餓鬼の館」/中短篇「安房国住広正」「妖刀記」「刀匠」「刀匠忠俊の死」「不吉な刀」「死斑の剣」「妖刀流転」「なまずの肌」)を集成。舞台はすべて時代物ではなく現代物。
古本で読んだ時は「なんて粗暴で下手な作家なんだろう」と思ったけれど、
本書で読むと、長篇など意外にリリカルに書かれていて拍子抜け。
とにかく大河内が書きたいのは刀剣に纏わるペダントリーで、
それを盛り上げる為に残虐・凄惨な生贄が捧げられる。
でもそのペダントリーは堅苦しく眠気を誘うようなものではない。
二長篇の妖気に満ち満ちた面白さは、退屈とは対極の位置にある。
中短篇では、普通の探偵小説なら倒叙物として扱われるであろう作が、その解決部分はなんともあっけなく無視され、そこに至るまでの刀剣をめぐる骨肉の争いに、一方的に力が注がれているのが笑えるほど無茶としか言いようがない。だが、その無茶っぷりこそ大河内常平。ミステリ珍本全集が登場したことで、これまでとても評論家筋には良い顔をされなかった作家・作品を面白がる土壌ができ、ゲテモノ扱いされてきた大河内にも光を当ててもらえる時がようやく到来して欣快に絶えない。
これを機に大河内作品の復刊が続く事を希望する。あと、ミステリ珍本全集は第二期に入って、
きっと値上げするんだろうなと思っていたが、値段据え置き。
こっそり値上げを続けている論創ミステリ叢書と違って、この点も評価すべき。
(銀) 『九十九本の妖刀』の初刊本は大手の講談社から出ており、
しかもこの長篇は映画化もされた(2020年9月4日の当Blog記事を見よ)。
にもかかわらず、昭和の後半から21世紀を15年も過ぎるまで大河内の存在は人々の記憶から忘れ去られていたのだから、探偵作家業なんて儚いものだ。大河内単独著書として、文庫本ではまだ一度も出されたことが無いから、次は大河内の文庫だな。