2020年12月6日日曜日

『野村胡堂探偵小説全集』野村胡堂

2014年12月21日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

作品社 末國善巳(編)
2007年3月発売



★★★★     あらえびす氏の探偵小説




本書後半の随筆・発言篇を読むと、胡堂が探偵小説に親しみ、江戸川乱歩と交流を深め共に黒岩涙香本を蒐集したり、ドイルのみならずヴァン・ダインやクイーンなど海外作家にも目を通し、日本探偵作家の才能と努力に正当な敬意を払っているのが好ましい。では、ご本人の書いた探偵小説はどうか?

 

 

創作篇は3つのパートに分かれる。まず第一のチャプター。

呪の金剛石」「青い眼鏡」「死の予告」「女記者の役割」「踊る美人像」

 「悪魔の顔」「流行作家の死」「古銭の謎」「悪人の娘」「古城の真昼」

 「判官三郎の正体」「音波の殺人」「笑う悪魔」

 

 

警視庁・花房一郎/新聞記者・千種十次郎/〝足の勇〟こと早坂勇のレギュラー・キャラ三人によるシリーズ。甲賀三郎風の通俗的な謎解きなのだが、何かが欠けている。いわゆるつまらない探偵小説にありがちなことで、例えば短篇の構成を序盤 → 中盤 → 後半に分解して見てみた時、中盤 → 後半、つまり探偵役が謎を突き詰め、最終対決で犯人を取り押さえるまでの最も肝心な緊張したサスペンスの盛り上がりがまったく書かれず、いきなり犯人逮捕の場面になっていたりする。そんな欠点があるのでいまひとつ。

 

 

あらえびす氏は論理性は苦手、あるいは向いてなかったんだろうか?乱歩はおろか、森下雨村や小酒井不木よりかなり年齢が上なので、世代ギャップもあるかも。それに比べると次の怪奇小説ものは、より自然にこなれていて良かった。

「死の舞踏」「焔の中に歌う」「葬送行進曲」「法悦クラブ」

 


三つめのチャプター。戦前の雑誌『少女倶楽部』を中心に書かれた少女探偵小説も、発表媒体に見合った子供向け小説を書き慣れた胡堂なりの出来。

「天才兄妹」「眠り人形」「向日葵の眼」「身代りの花嫁」「水中の宮殿」「九つの鍵」

 

 

ほぼどれも都会を舞台とした華やかなシチュエーション、胡堂お得意の音楽ネタも随所に鏤めてある。作品としての読後感は★3.5だが、編者・末國善巳の丁寧な仕事は★5つ。
で、総合して★4つの評価とした。
でも胡堂の探偵小説全集を謳っている以上、大人ものだけに絞るのならともかく、本書は六篇のジュブナイルも収めているのだから、どうして巻数を増やし「六一八の秘密」「スパイの女王」「都市覆滅団」等、わんさか残っているジュブナイル長篇探偵小説も総ざらえしなかったのか?




(銀) 岩手県の野村胡堂・あらえびす記念館へ寄贈された野村胡堂宛書簡2087通のうち238通の内容を収録した『野村胡堂・あらえびす来簡集』という本がある。それの巻末に載っている胡堂宛全書簡リストにある探偵小説関係の発信者名を拾ってみると、次のような名前が見つかる。


乾信一郎/海野十三/江戸川乱歩/大倉燁子/奥村五十嵐/木々高太郎/九鬼澹/

甲賀三郎/城昌幸/高木彬光/武田武彦/田中早苗/角田喜久雄/

延原謙/水谷準/森下岩太郎(雨村)/山田風太郎/横溝正史/


どうしても時代小説の書き手が多くなるけれど、作家としても報知新聞グループ編集者としても胡堂と探偵小説シーンとは接点があり、実際書簡が残存していない探偵作家とも大なり小なりの面識はあったのだろうと想像される。