2015年9月15日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
創元推理文庫 日下三蔵(編)
2015年9月発売
★★★★ ベリー・ベスト・オブ・海野十三 その2
先行して出た『獏鸚』と本書は探偵小説/海野十三の熱心なファンならきっと所有している筈のちくま文庫『三人の双生児』を二冊に分けて少し増補しただけで、さしたるボーナス収録も無く解説までほぼ流用していてガッカリ。
三人模様の告白話から浮かび上がる戦闘機事故 → ×××× を ×わせて復讐する展開の「恐ろしき通夜」、蠅をテーマとする異なる7つのエピソードをメドレーにした着想が素晴らしい「蠅」、青年の好色な覗き・フェティシズムから最後のたった二行で変態度を引き上げる「階段」、いずれも今の時代に読んで少しも古びていない。グロテスクで息苦しい素材も〝柳に風〟な筆が程良いバランスに中和してくれるのが肝。「三人の双生児」は戦前の(昭和16年刊)春陽堂文庫収録時には(伏字でなく)6頁も切取削除を食らうほど猟奇の匂いを発しながら、泣ける要素も持ち合わせた出来栄え。
▲収録作:
「電気風呂の怪死事件」「階段」「恐ろしき通夜」「蠅」「顔」
「不思議なる空間断層」「火葬国風景」「十八時の音楽浴」「盲光線事件」
「生きている腸」「三人の双生児」/エッセイ「【三人の双生児】の故郷に帰る」
数多い少年物にも別の魅力があるが、昭和6~13年初期型海野はズバ抜けて猥雑で面白い。参考までに、徳島県立文学書道館が刊行している「ことのは文庫」(平成19年刊)/『三人の双生児』『十八時の音楽浴』は今回の創元推理文庫二冊と収録作が少ししかダブってなく価格も安いのでお薦め。在庫さえあれば書道館の通販でも買える。
ことのは文庫 収録作:
〇『三人の双生児』
「三人の双生児」「【三人の双生児】の故郷に帰る」「くろがね天狗」「夜泣き鉄骨」「爬虫館事件」「骸骨館」「透明猫」
○『十八時の音楽浴』
「十八時の音楽浴」「電気看板の神経」「空気男」「洪水大陸を呑む」「特許多腕人間方式」「俘囚」「生きている腸」「ある宇宙塵の秘密」
解説/山下博之 各420円
論創ミステリ叢書では今以て、海野単独名義の巻は刊行されていない。海野の専門家達/長山 靖生・會津信吾・瀬名堯彦・海野十三の会による三一書房版全集未収録作を多数収めた単行本が欲しい。(ヨコジュンもいてくれたら・・・)
(銀) 池田憲章周辺で制作・リリースすると耳にしていた『海野十三読本』の企画はいったい何処へ消えてしまったんだ?「新八犬伝」の研究本といい、こちらがすごく読みたいと思う本を「出すぞ!」みたいに聞いていたのに、どれも実現せず口先だけに終わってしまった。もっとも平成9年に同人出版で出された『名探偵 帆村荘六読本』という(これは池田の仕事ではない)、実にマニアックなファンブックは先行していたのだが。