2020年12月25日金曜日

『消えたダイヤ』森下雨村

2016年11月8日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

河出文庫 KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ
2016年11月発売



★★★★★    初出誌は『少女倶楽部』




『白骨の処女』の売れ行きがそこそこ良かったから、続けて本書をリリースしてくれたのかな。 だとしたら(しなくても)手頃な文庫で森下雨村を読めるのは嬉しい限り。ドンドン継続して下さい。

 

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今回収録の長篇「消えたダイヤ」が佐川春風ではない別名義・花房春村で少女雑誌に連載されたという情報は山前譲の解説で初めて知った(と思ってたら『森下雨村探偵小説選Ⅰ』の解説で既読だった)。この作品を読んだことがある人の大抵は昭和5年改造社版『日本探偵小説全集 森下雨村集』による筈で、それ以来数十年ぶりの再登場。

 

 

なぜいきなり大人ものでなく少女ものを選んだのだろう? 没後から現在に至るまでの間に刊行された雨村の著書で最も人口に膾炙したのは少年倶楽部文庫の『謎の暗号』だった(いや、釣り随筆『猿猴川に死す』かな?)。連載の場も『少年倶楽部』と同じ大日本雄弁会講談社の兄妹誌『少女倶楽部』なので、『謎の暗号』と同じ文庫の形でシンメトリーにするべく山前譲は本作を選んだのでは・・・と私は見ている。

 

 

『謎の暗号』の富士夫少年ほどスーパーマンではない二十歳前とおぼしき girl & boy が主人公。トリックといえるほどの技はなく、レガリア金剛石の在処と真犯人の正体露見のラストに向かって冒険を繰り広げる。初出は大正14年。

 

 

江戸川乱歩とは歳四つしか違わないが、少年少女ものを書くときの雨村の口調文体は年長者っぽい古めかしさがある。いごっそう土佐弁の名残なのかもしれない。登場人物の名前の中に「ミズタニ」「ミチオ」と出てくるのはまだ若かった大学生時代の水谷準(本名は納谷三千男)の名を拝借したものだろうか。

 

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河出文庫での雨村の好評を受けて論創ミステリ叢書が『森下雨村探偵小説選Ⅱ』の企画に動き出した。だから『Ⅰ』が出た八年も前から言ってたのに。「続巻を早く」ってさ。






(銀) 〈KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉は続きを楽しみにしていたのだが、この後に出されたものは底本に使用するテキストが(初出誌・初刊本ではなく昭和40年代の桃源社の本など)好ましくないものだったり、読むのが困難でもないような作品(特に江戸川乱歩『盲獣・陰獣』)ばかりになったりで、すっかり興味を失ってしまった。


文庫版の〈KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉とは別に、〈レトロ図書館〉という単行本の版型に変更しつつ似たような路線で刊行は続いたが、魅力的でないセレクト/底本テキストの問題は相変わらずだったし、私は〈レトロ図書館〉の本は一冊も買っていない。




これらのシリーズが仮にビギナーを獲得する為の企画だったとしても、底本の選び方で手抜きをしちゃいかんだろ。同じ山前譲がタッチしているのに光文社文庫だと底本の選択は真っ当だから河出の本での山前は作品選定(のアドバイス)をしているだけで、よろしくない底本選びは編集部が?