2020年12月24日木曜日

『白骨の処女』森下雨村

2016年6月8日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

河出文庫 KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ
2016年6月発売



★★★★★    想定外の文庫化復刊




この長篇がまさか文庫で復刊されようとは!Viva、河出!
元々は全て書下ろしによる昭和7年新潮社『新作探偵小説全集』全10巻のうちの一作品で、それ以来なぜか一度も再発される機会がなかった。論創ミステリ叢書のような高額な本以外で、こんな風に手軽に読めるようになった事は大変価値がある。

 

 
本作の概要を、昭和7年当時の新潮社『新作探偵小説全集』内容見本より引用してみる。 


〝 春麗かなる美貌の令嬢瑛子の不可思議な失踪と同時に、帝都の一隅に或る青年の怪死體が發見されて、事件は急轉直下的に廻轉する。

 

一方、北國の富豪山津常太の過去を包む呪ふべき秘密を中心に、戦慄すべき惨劇と宿命との一大交響楽は火の車の如く展開する。

 

その指揮棒を振るは魔か人か!顫へ戦く人影、古風な金指環、北龍荘の怪、完全無欠のアリバイ、崩れゆく断層、等々々。〟

 



古書で初刊本を買って以来の再読だったが、その時よりも面白く読めた。編集者雨村ならではの余計な部分を削ぎ落した快調なる筆捌き、新潟・東京二都のロマンティックな戦前モダン風景、存外アリバイの構図などもしっかり書かれていて、蒼井雄「船富家の惨劇」あるいは松本清張「点と線」のプロトタイプにも成り得ている(ちょっと褒め過ぎか)。

 

 
『新青年』でよく見られるユニークなルビ振りも、この文庫では面倒臭がって省く事もせずキチンと載せているのが偉い。ラノベ絵カバー・語句改変に忙しい角川や光文社とは違う。ちなみに初刊本に併録されていた短篇「負債」は本書には未収録。

 

 
このところ久生十蘭や日影丈吉、あと渋いところでは三角寛なども文庫化してきた河出だが、この勢いで日本の探偵小説の埋もれた作品を次々と復刊していってもらいたいもの。前述の新潮社「新作探偵小説全集」の中で復刻の動きからから未だ忘却されている作家といえば「狼群」の佐左木俊郎か。あ、大事な事を書き忘れていた。本書の解説は山前譲。





(銀) 河出書房新社のサイトでは、本書よりずっと前に河出文庫で出ていた国枝史郎『神州纐纈城』小栗虫太郎『黒死館殺人事件』も含め、これらのカテゴリーを〈KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉と呼んでいるようなので、当Blogでもそのように記載する。




この『白骨の処女』が出た時は自分の中でかなり盛り上がったものだ。本文中で触れている佐左木俊郎の長篇「狼群」も2020年8月25日の記事で取り上げたように論創ミステリ叢書『佐左木俊郎探偵小説選 Ⅰ 』へ収められたが、『Ⅰ』は2020年8月にリリースしていながら続巻で出る筈の『Ⅱ』はいまだに刊行されそうな気配も無いばかりか、論創社HPでの近刊予告を見ると次の配本はいつの間にか『霜月信二郎探偵小説選』にされている。 ???