2020年11月8日日曜日

『日本推理小説論争史』郷原宏

2014年2月15日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

双葉社
2013年10月発売



★      著者・編集者共に不適格




各論争を年代順に並べなかったのは「最初から古臭い話が続いたのでは読者がついてこないでしょう」と編集部に言われたかららしいが、もしシリアスな論争史を書くのならば正当に時間軸に沿って構成すべきだった。のっけからまず視点が曖昧。

 

第一章  名探偵論争        (佐野洋 vs 都筑道夫)

第二章  匿名座談会論争      (笠井潔 vs 匿名座談会)

第三章  邪馬台国論争         (高木彬光 vs 松本清張・佐野洋)

第四章  「黒い霧」論争      (松本清張 vs 大岡昇平)

第五章  「一人の芭蕉」論争    (江戸川乱歩 vs 木々高太郎)

第六章  探偵小説芸術論争       (甲賀三郎 vs 木々高太郎)

第七章  本格×変格論争        (甲賀三郎 vs 大下宇陀児)

第八章  ブルジョワ文学論争    (前田河広一郎 vs 江戸川乱歩)

第九章  創成期探偵小説論争    (黒岩涙香 vs 主流文壇)

 

ただでさえ感情のぶつけ合いになりがちだし不毛な結果に終わる事も多いので、なにかしら著者の手捌きを見せてほしいのだが、郷原宏の卓見にはキラリと光るものが無くネタの選択にも疑問があるのでどうも引き込まれない。第二章の笠井潔などいらなくてむしろたったの四頁しかない「胡鉄梅」(妹尾アキ夫)をメインに採り上げるべきだし、第七章も戦後の抜打座談会事件をなぜ前面に押し出さないのかね?

 

 

はたまた高木彬光・山田風太郎の共同匿名と云われている魔童子 vs 大坪砂男に触れてないのも手落ちとしか思えない。日本探偵小説の歴史の中で当然ピックアップされねばならない論争がポロポロ抜け落ちている。単なる野次馬的な観点なのか、各論争の意義があったかどうかの検証なのか、選択の基準を明確にしてほしかった。

 

 

『物語推理日本小説史』を読んだ時にも感じたが、好事家には知っている事ばかりで新鮮な発見が皆無。郷原宏は大正~昭和30年代のレトロスペクティブな探偵作家へのアプローチなどせず、おとなしく松本清張や社会派以降の作家に関する仕事に専念している方が利口なのだ。




(銀) 『乱歩と清張』等の著書からも薄々察せられる如く、日本のミステリーは全て松本清張に通じ、清張こそ一番エライというのが郷原の自論。探偵小説についてはたいして識者でもないのに
何冊もそれっぽい本を出すから毎回スベる羽目になる。わざわざこっちの領域にまで顔を突っ込んでこなくても、清張とその時代だけ追求していればいいものを。




本書において「各論争を年代順に並べると古臭い話には読者がついてこない」なんて考えているうすらバカな編集担当しかいないのも『小説推理』(本書の初出誌)らしい話で、探偵小説に対する理解が欠落している人間だから自然とこんな言葉が口をついて出てしまう。さすが喜国雅彦に似非ミステリ・エッセイを書かせ、単行本を何冊も出してきた双葉社なだけのことはある。