2020年11月29日日曜日

『白昼艶夢』朝山蜻一

2014年3月10日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

出版芸術社 ふしぎ文学館
1995年5月発売



★★★★     感情を拒む被虐の世界




覗き・騙し・盗み、そして殺人。人がタブーとする行為を描くのが探偵小説だとしたら、朝山蜻一にとってのそれは人間性を忘れたようなサドマゾ絵巻。


                   


「くびられた隠者」は首を絞められる事だけに悦びを覚える孤独な画家とその家政婦の話。

「白昼艶夢」は女の胴をコルセットで締め上げ、

「掌にのる女」はゴム袋の中に窮迫し肉塊と化した妻を愛で、

「巫女」では凌辱好きの男が自分の女を霊媒に仕立て怪しげな宗教の教祖になる。

被虐者は責める者にただ従順であって、むしろそれを懇願さえもする。これぐらいはまだいい。

 

 

老人形師が好いた女の分身たるマネキンを次々に製造し、
魂を吹き込む為にマネキンの膣に射精する「人形はなぜつくられる」


性交せずに生きられない錺職人の為に、
死んだ妻が亭主好みの女に憑依して強姦を手助けする「死霊」


これまたコルセットで括れた女体を好む青年と決して躰を許さない妻同様の女を描く「天人飛ぶ」は悲哀があってまだ共感できる余地がある。


しかし女体の代わりに羊を抱かせる「ひつじや物語」と、
犬同様の扱いを受ける「僕はちんころ」はいくらなんでも・・・。




輪姦ユートピアを描いた長篇『真夜中に唄う島』(扶桑社文庫)も胸の悪くなるような小説だったが、ここまで生臭いとイケナイ背徳感の陶酔さえ、させてもらえない。 


                    


耽奇小説といえどあまりに異質なので、『わが懐旧的探偵作家論』収録分を短縮した山村正夫のエッセイを再録するより、もっと解り易い書き下ろし解説を付けた方が初読者には親切だった。この「ふしぎ文学館」は企画自体とても良いのだけどカバーデザインがもうひとつなのが不満。特に書題の極太ゴシック体文字はなんとかならないか。
 

 

朝山についてアレコレ申したけれども、これも戦後探偵小説の一つ。『密売者』『キャバレー殺人事件』『断崖の悪魔』が復刻されたら私が喜んで買うのはいうまでもない。

 

 

(銀) 私の最も好む朝山蜻一作品は長篇「処女真珠」(別題「海底の悪魔」)。ミステリ的にではないが風俗探偵小説として海女の生態が生々しく描かれているところが素晴らしい。「真夜中に唄う島」よりずっと面白いと思うのだが。

 

 

数年前、某所にて『朝山蜻一未刊行作品集(仮題)』が企画されている気配があったのに一向実現せず、〈昭和ミステリ秘宝〉の『真夜中に唄う島』以降朝山の新刊が出そうな動きも無い。
Oh God!