2020年11月28日土曜日

『私は呪われている』橘外男

2014年12月31日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

戎光祥出版 ミステリ珍本全集⑥ 日下三蔵(編)
201412月発売




★★★★★   忌まわしき少女猟奇小説「双面の舞姫」



自主規制病まみれの平成の世において、偕成社版単行本の伊勢田邦彦による挿絵まで併せてよくもまあ「双面の舞姫」を復刻したもんだ。異臭を放つが如き橘外男のあくどい一面 ~ 醜い獣人による美女誘拐蹂躙 ~ を披露せしめるこの長篇は次のような変遷を経ている。

 

■「青白き裸女群像」(舞台=海外/大人もの) 昭和25年刊  

            『陰獣トリステサ』(平成22年刊/河出書房新社)に収録

             ↓

■「双面の舞姫」(舞台=日本に改作、少女雑誌に連載)    昭和29年刊

             ↓

■「地底の美肉」(「双面の舞姫」を大人ものへ再びリライト、

              終盤の展開が一部異なる) 昭和33年刊

 

普通なら大人ものの「地底の美肉」を採るところを旧単行本のレア度と古本市場での需要を考え「双面の舞姫」の方を本巻に収録したのは五月蠅い読者への実に機敏な配慮。論創ミステリ叢書に欠けているのはこういうところなんだよね。詳しくはバラせないが「地底の美肉」「青白き裸女群像」より控えめとはいえ、胸の悪くなるような素材が扱われている、そういう意味での問題作だと警告しておく。 


                   


もうひとつの伝奇怪談「私は呪われている」はいわゆる怪猫もので作者最晩年の長篇。山陰地方の廃寺に迷い込んだ学生が狂死、更にまた別の犠牲者が。オソロシイ調子で物語は現代での事件から時を遡り、あの「八つ墓村」にも比すべき80年前の残虐な因縁話へと雪崩れ込む。

 

 

悲劇の若君・八千丸が惨殺された後、それまでのオドロオドロしさの中に時々コミカルさが混じるのはユーモア物も手掛けた橘外男ゆえ? 最後に再び話は現代へ戻り、怨霊が狂死者を祟る理由付けがやや遠かったり、260頁あたりで語り手が謎の解明を完全にやりきらないのが ちょっと雑でもある。

 

 

それでも偕成社版『双面の舞姫』に併録されていた「人を呼ぶ湖」も含め、前巻の高橋鐵にあったリーダビリティー不足を感じさせず、厭きる事なく一気に読み通せるのが強みでもあり、本巻は橘外男を読む入門一冊目としても取っ付き易くて良いセレクトだなと思った。「蒲団」「逗子物語」しかり、海外よりも日本が舞台の作のほうが私は好きだ。書き忘れたが「ムズターグ山」「魔人ウニ・ウスの夜襲」「雨傘の女」という単行本初収録三短篇もあり。

 

 

さてこれで本全集も第一期が終了との事。第二期以降もこのユニークな視点で質を落とす事なく価格は上げる事なく続けてもらいたい。




(銀) 国書刊行会が現在『定本夢野久作全集』を配本中だけど(近々このBlogで取り上げる予定)、初収録ものが殆ど無いし、あまり売れてなさそうに見えるのは気のせいか。むしろ橘外男の初めての全集でも出したほうが業界も盛り上がったのに。(でも巻数は結構多くなりそう)



オークションとかネット上で売られているマイナー古雑誌に、見たことのないタイトルの橘外男作品が載っているのを見かけると、単行本未収録な彼の作品ってどれぐらい残っているのだろうか? と時々考える。例えば戦後のタブロイド紙『東京タイムズ』には「肉塊と獣人と王弟殿下」という小説を書いていたようだが、それ以外にも新聞に連載されたまま本になっていない長篇が埋もれていないかな。