●「幽溟荘の殺人」
長篇。本書は初出誌を底本とし、読者への挑戦や手掛かり索引がある。しかし初刊から三年後、単行本に再度収録された時(1958年)には「黒い断崖」と改題され、探偵が在原竜之介 → 尾形幸彦へと変更、その他に一部の固有名詞や各章題も変えられ手掛かり索引は削除された。内容的にはあと数人、容疑者が欲しい。
●「愛の殺人」
魔の淵・仏浦で次々に起こる同じような悲劇。令嬢・住友紀美は果たしてビッチなのか?
●「52番目の密室」
若妻のエロな習慣を描くも × × トリックあり(ネタバレ防止の為、伏字とす)。
●「夢 魔」
これも作者から読者への挑戦物。この作は単行本に初収録なのか既に収録された本があるのか、本書の初版では解題執筆者は書き忘れている。前はこんな事は無かったのだが・・・。
●「三味線殺人事件」
探偵小説家として尾形幸彦登場。ううむ、この殺害方法はミステリ好きなら冒頭ですぐ解ってしまうぞ。
●「雪の夜語り」
教授として尾形登場。上記の尾形幸彦と同一人物かどうかは不明。しんみりする一品。
●「空間に舞う」
訳あって人里離れた地へ主人公が訪れ、そこで出会った美しい若妻が異様な夫婦関係にあるという設定は長篇「犯罪の足音」(本書未収録)にそっくり。登場人物や結末は違うが、この短篇をリサイクルして「犯罪の足音」が書かれたのだろうか?
●「G大生の女給殺し事件」
G大教授として尾形幸彦登場。単行本収録(1958年)時には「青春の断崖」と改題。本書の初出ヴァージョンでは各章題が数字のみだが、「青春の断崖」ではちゃんと章題があり、微妙にテキスト異同もある。
例/本書316頁の最期の行 「一人の無辜の青年」
改稿(「青春の断崖」) 「無実の罪に苦しむ一人の青年」
●「あざ笑う密室」
『ヒッチコック・マガジン』に発表され、単行本初収録。
その他エッセイを十七篇収むる。鯱彦が乱歩作品の中で「何者」を最も褒めているのが嬉しい。私も「何者」は過小評価だと思っているので。今回、本叢書で鯱彦の巻が二冊出た訳だが、まだ残っている彼の作品は結構ある。
(銀) 岡田鯱彦も例外なくジュブナイル作品を書いているのだが、今まで単行本になったのは1958年の『黒い太陽の秘密』(東光出版社)のみ。これが尾形幸彦こそ出てくるとはいえ、鯱彦らしくないサイエンス・テイストが入った長篇。最低でも二十作近いジュブナイルの存在が確認されており、そこに鯱彦らしさはあるのだろうか? いつかはそれらも本になるといいけど、まずは大人もので埋もれたままになっている作品を読めるようにするのが先だな。