2020年11月18日水曜日

『文藝別冊/夢野久作/あらたなる夢』

2014年2月26日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

河出書房新社 KAWADE夢ムック
2014年2月発売



★★★★    新たなチャプターに入った久作研究




なぜ今、河出の文藝別冊で夢野久作を取り上げたか? 安藤礼二×中島岳志による政治性の濃い対談を冒頭にもってきたところから、編集部の思惑が見えるような気がする。



久作の野球エッセイ「親馬鹿ちゃんりん」、腹違いの妹・森あや子宛の情味あふれる久作書簡、手帳に書き留められていた「猟奇歌」、2013年に発見された「ドグラ・マグラ」草稿画像(その原稿用紙裏面は久作の長男・杉山龍丸によって再利用されている!)など単行本初収録のものは見逃せない。

 

 

やはり私は、久作を語るに相応しい研究者諸氏の近年の動きがわかる西原和海×川崎賢子×浜田雄介「夢野久作の読み方」が最も興味を引く。そうか、問題の雑誌『黒白』は未だに発掘が進んでいないのか・・・・。玄洋社の遺族の方々、旧家にあの雑誌のバックナンバーが残っていないでしょうか? 本書寄稿者中、杉山家関係者である久作の孫・杉山満丸のエッセイにはもっと頁を割いてほしかった。その他、全集月報や雑誌でしか読めなかった寄稿文の再録もある。

 

 

こういったムック本によくある信者のオマージュや論考なんぞは全然要らないのだが、まあ良しとしよう。しかし巻末の「夢野久作作品リスト」はミスが多くて残念。例えば「狂歌師 赤猪口兵衛」が収録されているのは、葦書房『夢野久作著作集』(作品集ではない)ではなく三一書房版全集では? 著作一覧は『著作集』第六巻で読むことができるので、今回は著書目録を作ってほしかった。

 

 

本書に触れてある通り、地元・福岡で夢野久作の研究が盛り上がることは今までなかった。だが2013年「夢野久作と杉山3代研究会」が立ち上げられ、杉山満丸も積極的に助力している。本書の刊行には、この研究会の活動も大いに影響を及ぼしている筈。




(銀) KAWADE夢ムックでは過去に江戸川乱歩/山田風太郎/久生十蘭を特集した。例えば、乱歩の号だと芦辺拓や喜国雅彦のしょうもない腐れ記事がある反面、その昔少女雑誌にて三津木春影が中絶させてしまった「悪魔が岩」の後編を、読者が描いてくれるよう編集部が募集した時に、若き日の乱歩がせっせと執筆した旧い草稿が復刻されており、今以て此処でしか読めない。また未だに往復書簡集として世に出ていない横溝正史宛の乱歩書簡も掲載。つい忘れがちだけど重要な記事が載っていたりする。