2020年11月17日火曜日

『消すな蠟燭』横溝正史

2012年7月29日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

出版芸術社 横溝正史探偵小説コレクション⑤
2012年7月発売



★★★★   正史を取り巻く安易な企画が腹立たしい




れまで横溝正史探偵小説コレクションではレアものをキッチリ押えてきたのに、どうして今回は「岡山もの」なんてテーマにしたのか? 改悪がまだ無かった二つの講談社版横溝正史全集以前のテキストを使用し比較を行った校訂なので、まあ買う価値が無い訳ではない。大甘な評価だが★4つにしたのはそれだけが理由。




「神楽太夫」「靨」「泣虫小僧」「空蝉処女」等の六短篇は戦争の抑圧から開放された時期の作ゆえ、情念とトリックを具えたその内容は読み応えがある。一方、休養に訪れた金田一耕助を磯川警部が事件に巻き込んでしまう「鴉」と「首」は冒頭のシチュエーションが殆ど同じ作品なので並べてしまうとせっかくの魅力も半減する。




『横溝正史研究』3号の目玉だった加筆版「首」のミスをここで訂正したかったようだが、『横溝正史研究』に掲載して世に出す段階で正しい校訂ができていない事自体が問題であり、校訂し直したテキストを本書に再録するという考えがいかにもテキトー過ぎるし、前巻『迷路荘の怪人』に続き本巻も誤字が気になる。


123頁上段6行目 「そうで、そうです。」→ ×  「そうです、そうです。」→ 〇

2446行目   「同署」→ ×         「同書」→ ○


浜田知明はたしか校正業が本業だった筈だが、ちゃんとテキストの最終チェックしているのか? 収録作の方針も含めてますます信用できない。

 

 

但し、「正史生誕百十年」にかこつけて言葉狩りテキスト及び(山前譲が関わった数冊を除き)元々あった解説も新しい解説もないという最悪の横溝本「金田一耕助ファイル」の不良在庫へ杉本一文の旧版文庫に使われていたイラストをまるでカラーコピーしたような雑な画質のカバーを掛けただけの角川文庫よりはまだ全然マシ。出版芸術社はこんな中途半端なセレクトにするぐらいなら、金田一もの、由利・三津木ものを除くノン・シリーズの探偵ものを全て読めるように詳細な校訂で網羅すればよかったのに。 装幀がダサい「ふしぎ文学館」の『鬼火』も一旦バラして再編集するとかして。角川が横溝正史に対して誠意が全くないのは誰の目にも明白なのだし。

 

 

今度リリースされる映画『犬神家の一族』(76)ブルーレイも相変わらず最善のリマスターではないという前評判ではないか? タイアップすれば売れるなど、もはや前世紀の発想にすぎない。この本も岡山県真備町での珍妙なコスプレ・イベントを意識してこんなんなっちゃったのかね?『横溝正史研究』といい本書といい、安易な連動商売はやめてくれ!




(銀) これだけAmazonのレビューで散々言い続けたせいか、由利・三津木ものを纏めた(ジュブナイルは除く)「由利・三津木探偵小説集成」とノン・シリーズの短篇探偵小説を纏めた「横溝正史ミステリ短篇コレクション」がいずれも柏書房から刊行された。あまりにも遅すぎる集成仕事だったし、あれは日下三蔵が動いたから実現できた訳で、決して正史研究者達のおかげではない。



本だけではなく横溝正史に関する商品ってどれもこれも甘っちょろいものばかりで、金田一耕助は原作(小説)の熱心な読者でもない層の便利な遊び道具にすっかり成り果ててしまった。