2020年11月14日土曜日

『戦後の講談社と東都書房』原田裕

2014年8月2日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創社 <出版人に聞く>⑭
2014年7月発売



★★★★★   半世紀以上に亘る業績を追うには頁数が足りぬ




原田裕といえば講談社 → 東都書房 → 出版芸術社と、終戦直後から現在に至るまで探偵小説に縁の深い名編集者。ゆえに今回は特に楽しみにしていたのだが、探偵小説に関する話は半分位か。帯に書いてあるほど、全編ミステリがらみのインタビューではない。





社内の懸念に反して山岡荘八『徳川家康』(!)をベストセラーにしたエピソードや、昔の編集者は営業・経理のことを全く慮っていない猛者ばかりだったという懺悔はとにかく痛快。ミリオン・ブックスにロマン・ブックスといった懐かしの新書版の成立ちを語れるのも氏だからこそ。

 

 

斯様にして、探偵小説以外の部分では発見も多い。彼が手掛けた「書下し長篇探偵小説全集」「日本推理小説大系」「東都ミステリー」「現代長篇推理小説全集」についても当然言及はされているが、探偵小説にうるさい読者にとっては、ディープな部分までつっこんで話を引き出せていない不満も。「閑話休題(あだしはなしはさておきつ)」と端折ったところにきっと我々が知りたい未知の話があったと思うのだが・・・。

 

 

「出版人に聞く」シリーズは毎回興味深いネタを取り上げているけれども、一冊の総ページ数・情報量が少ないのが残念なのと、聞き手の小田光雄が出版総論はともかく各分野(本書でいえば探偵小説)の深いところまで詳しい訳ではないので、「その筋の専門家のヘルプが必要だなア」と感じてしまう。

 

 

欲張り過ぎかもしれないが、88年に原田が会社を立ち上げ今も良い本を出して頑張っている出版芸術社の話が僅かしかフォローされていないのも残念。これまでの編集者人生を語った冒頭の2頁目にも紹介されているような〈雑誌でのインタビュー〉をアーカイブしたり、作家達との交流を新たに語り下ろしたものを纏めて、もう一冊分の本を作り業績が顕彰されてもおかしくないほどなのに。原田会長、この本だけでは全然物足りないので自社から出すのは気恥ずかしいかもしれませんが、いっそ出版芸術社から、ご自身と探偵小説界との繋がりを網羅した本を出してくれませんか?




(銀) 本書で探偵小説関連のエピソードが引き出せていないという不満は、翌2015年にリリースされた新保博久『ミステリ編集道』の中の原田裕インタビューにてかなり解消される。2018年秋、原田はその生涯に幕を下ろした。享年94、堂々たる人生。また20冊目にあたる『「暮しの手帖」と花森安治の素顔』をもって、<出版人に聞く>シリーズは2016年にとりあえず完結している。