緊縛美については少しも詳しくないけれど、飯田豊一には興味があったので本書をピックアップした。警察から目をつけられ世間からは虐げられながらも己の信ずる美を追求する苦闘の歴史。この世界は発信する側・読み手ともにトテモ孤独で繊細な人達のサークルだったのだなと思う。
飯田は才人・須磨利之(=喜多玲子)を回想の軸として、雑誌『奇譚クラブ』『風俗草紙』『裏窓』の裏表をよどみなく語る。現代の、何の美意識もない無機質なAVなんぞとは全く異なり、彼らの遺してきたものが如何にリリカルだったか、江戸川乱歩や三島由紀夫らが『奇譚クラブ』の読者だった例からもわかる。
単行本「裏窓叢書」「SM選書」シリーズへの言及もあり。氏はマルチ・クリエーターで、濡木痴夢男をはじめ幾多もの別名がある。飯田豊吉名義で出した長篇「怪異愛霊教」が古書店にて探偵小説枠で扱われる事もあって、アブノーマル雑誌周辺での探偵作家の執筆活動について(一部触れてはあるが)もっと詳しく知りたい。本書の限られた頁数では深く踏み込めなかったのは仕方がないが、いつもの小田光雄ではなく『あまとりあ』系探偵小説に詳しい人物が聞き手だったならば、それは実現していたのではなかろうか。
それでも、戦後の『新青年』から『あまとりあ』『耽奇小説』『マンハント』と渡り歩いた中田雅久が〈久保書店/あまとりあ社〉と〈探偵作家〉を繋ぐ重要な役目を果たしていたという情報には成程と頷かされる。中田の人脈と思しき岡田鯱彦・楠田匡介・大河内常平・九鬼紫郎らの書いたエロティック・ミステリーは復刊の動きから完全に置いてきぼりだし、本書をキッカケに陽の目を見る機会が訪れるのを願う。閑話休題。
様々なタイプの日本の探偵小説が新刊本として読めるようになりながら、このフィールドに関して殆ど無関心なのは依然として変わっていない。変格の一端と見ていいと思うのだが。