処女作「十八号室の殺人」(昭6)だけは密室を使った本格らしき内容だが、光石介太郎は変格寄りの人。短篇二十一篇と随筆七篇を収録。帯に「乱歩の勧めで文学に転向した男」とあるけれど本巻を読んだ人は彼が純文学に向いていると思っただろうか?
「皿山の異人屋敷」など猟奇的なスリラーも多いが、ラストへ辿り着くまでに結果が見えてしまって、最後に与えるショックがおしなべて弱い気がした。本人の自賛する「霧の夜」における、投剣の的にされ恐怖で縮んで消失するサーカス娘は江戸川乱歩「押絵と旅する男」のような自然な演出に見えなくて、「魂の貞操帯」のラストにも同じような不満あり。光石が乱歩大好きなのはわかるが、『新青年』文体模写企画で乱歩を担当した「類人鬼」も果して似てるかな?
『新青年』の水谷準編集長になかなか原稿を採用してもらえなかったり、乱歩に「純文学の方へ行かないか」と言われてしまう話や、『ぷろふいる』作家との交友を回想した随筆篇の方が無性に面白い。この人は探偵小説・純文学に関係なくそこまで上手い作家とはいえず、清貧といえばよく聞こえるが乱歩や水谷準に金を借りたり、作家として自立できない不甲斐無さがあった。
それでも昭和50年『幻影城』に発表され本書創作篇を締め括る「三番館の青蠅」は、「パノラマ島綺譚」「鬼火」路線かと一見思わせラストシーンはグロいが、双子に生まれたため養子に出されて苦労した自分を投影したかの如く、晩年にしてはまるで青年期に書いたような押せ押せの勢いがあり、これが最も印象に残った。探偵文壇外から戦後執筆した「ぶらんこ」「豊作の頓死」「大頭の放火」「死体冷凍室」「あるチャタレー事件」も普通に探偵小説として読めるものだし木々高太郎が『シュピオ』で「光石を売り出したい」と言ったように、それなりに期待はされていた筈だった。
(銀) 光石介太郎は福岡で生まれ、茨城でその生涯を終えた。戦前のある時期に光石が江戸川乱歩の弟子だなんて、乱歩の熱心な読者でもそんな風に見ている人はいないのでは?