2020年10月19日月曜日

『幻の名探偵』『甦る名探偵』

2013年5月15日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿


光文社文庫 ミステリー文学資料館(編)
2013年5月発売〈幻〉 2014年9月発売〈甦〉





★★★★   帯に謳っているほど、超レアな作品は無い




戦前における隠れた日本の名探偵を短篇で紹介するアンソロジー。まずはこのレビューを書いている時点(20135月)で現行本には未収録なこちらの三作から見ていく。


■ 私立探偵・帆村荘六 「麻雀殺人事件」(海野十三)

本書の中では最も知名度が高いであろう帆村の初登場作ながら、三一書房版全集『遺言状放送』以来の収録になる(注:本書リリース後、「麻雀殺人事件」は創元推理文庫『獏鸚 名探偵帆村荘六の事件簿』にも収録された)。


■ 法医学博士・志賀司馬三郎 「医学生と首」(木々高太郎)

大心池章次でなく志賀博士にしたところが渋い。チョイ役出演もあるが登場作品数でいえば志賀博士の方が大心池よりも多いのではないだろうか。ていうか木々作品を纏めた新刊本がいつまで経っても出ないので、「木々のシリーズ・キャラ作品が整理されるのを期待する」とか、そんなセリフを毎回書くのも、いい加減飽きてきた。


■ 私立探偵・木村清 「拾った和同開珍」(甲賀三郎)

甲賀といえば獅子内俊次、とも思うが彼の登場作は長篇が中心なので木村清ということか。それなら確かまだ単行本に収録されていない「消え失せた男」を入れてくれれば本書の価値がアップしたのに。


 

以下の五作は更にマイナーな探偵の面々。しかしこちらの探偵の方がすべて論創ミステリ叢書の各作家の巻に纏められており、今では現行本で容易に読めるという倒錯した状況にある。


■ 弁護士・花堂琢磨 「古銭鑑賞家の死」(葛山二郎)

■ 犯罪研究家・黄木陽平 「青い服の男」(守友恒)

■ 満洲大連警部・郷英夫 「競馬会前夜」(大庭武年)

■ 小学教師・吉塚亮吉 「素晴しや亮吉」(山下利三郎)

■ 青年探偵・秋月圭吉 「蒔かれし種」(あわぢ生=本田緒生)

 

とにかく地味なものもあるので初心者の方にはハードルが高いかもしれないが、明智小五郎・金田一耕助しか知らないビギナーの良い入口になって、それぞれの探偵のシリーズものを読むとっかかりになれば幸い。反面、コアな読者層にとっては今まで読むのが非常に困難だったといえるレアな短篇は無い。個人的には好企画だった『悪魔黙示録』『牟家殺人事件』に次ぐミステリ・クロニクルを出してほしかったのだが・・・。



 

(銀) 一年後に続巻として出た『甦る名探偵』では、戦後の日本の名探偵にスポットを当てている。この本はリリース時にAmazon.co.jpのレビューを書かなかったので登場する探偵と作品だけでもここに紹介しておく。

 

■ 警視庁捜査一課長・加賀美敬介   「霊魂の足」(角田喜久雄)

■ 犯罪研究科・伊吹憲太郎      「銃弾の秘密」(鬼怒川浩)

■ 学徒探偵・摩耶正         「不思議の国の犯罪」(天城一) 

■ 警視庁捜査一課係長・田名網幸策  「雪」(楠田匡介)



■ 警視庁鑑識課理化学室技師・緒方三郎 「三月十三日午前二時」(大坪砂男)

■ 私立探偵・秋水魚太郎        「うるっぷ草の秘密」(岡村雄輔)

■ 私立探偵・古田三吉         「歯」(坪田宏)

■ 弁護士・袴田実           「犠牲者」(飛鳥高)