2020年10月18日日曜日

『黄金孔雀』島田一男

2013年8月26日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

ゆまに書房 少年少女傑作選カラサワ・コレクション④
2004年8月発売



★★★★   これ一冊だけの復刻では
          島田一男ジュブナイルの特徴は見えてこない



昭和2526年、雑誌『少女』にて連載された少女探偵小説。本書は昭和26年の光文社版初刊本の伊勢田邦彦による挿絵もそのまま復刻している。小玉専之助博士の娘ユリ子の前に出現したるふたりの怪人。インドの孔雀王国からの使いだと名乗る黄金孔雀、そしてユリ子に贈られた孔雀石を狙う一角仙人。ユリ子の友達ルミ子の兄・香月探偵も加え三つ巴の活劇、小玉博士の過去に隠された秘密とは?・・・というあらすじ。

 

 

キッチュといえば聞えはいいが、当時の子供向けチャンバラとはいえグダグダに紙芝居っぽくて(現代の)普通の読者にはやや薦めづらい。ゆまに書房『少女小説傑作選』のもうひとつの探偵もの/西条八十『人食いバラ』の方がまだとっつき易いかも。

 

 

監修者の唐沢俊一はその珍作ぶりを笑ってもらおうとツッコミ目的の注釈を付けているが、島田一男とは何の関係もない附録の「ソルボンヌK子の貸本少女漫画劇場」も含め、こんな茶々入れは無用。唐沢の解説はそれなりにまともな事も書いているけれど、どうせ復刻するのなら論創社『少年小説コレクション』のように正攻法でやってほしかった。

 

 

先に述べたように本作はなんとも珍妙な内容で、島田一男のジュブナイルでまず最初に読むなら「怪人緑ぐも」「黄金十字の秘密」「まぼろし令嬢」あたりから始めた方が無難じゃないかな。その他にも「紫リボンの秘密」「青い魔術師」「七色の目」「謎の三面人形」「猫目博士」等といった作品があるが、彼の児童ものは全く読めない状況にある。再発の気運が盛り上がらない、それまでのクオリティと言ってしまえばそうなのかもしれないけれど、ハードコアな探偵小説読者からしたらそれでも読んでみたいのが人情。

 

 

ある程度纏めて読んでみないと島田一男ジュブナイルの長所はつかみ難いと思うので、誰かが次なる復刻を仕掛けるのを待つとしよう。本書はAmazonでは取扱がなくなっているが、このレビューを書いている時点ではまだ版元に在庫がある。興味のある方は絶版になる前にどうぞ。




(銀) 香山滋/高木彬光/大坪砂男/山田風太郎と共に ❛戦後派五人男❜ と呼ばれるホープの一人だった島田一男。それなのに(時代小説はさておき)彼の探偵小説で2000年以後に新刊で発売された本といったら、扶桑社文庫の昭和ミステリ秘宝『古墳殺人事件』と本書しか無い・・・・こんなにリバイバルの流れから取り残されている探偵作家もちょっといない。



作品数が相当多い人だが、戦後のデビューから昭和のバブルあたり迄は何かしらの単行本が常に刊行されていた。ただそれ以降は、固定客がいれば何年かおきにでも新刊は出され続けるのだろうが、島田のファンだと公言する人をあまり見かけない。更にここがポイントなのだが彼の著書のうち古書価格が軒並み高いのはジュブナイルだけで、大人向けに出された探偵小説で稀少扱いされるような本は殆ど無い。平成以後、再発を望む声が上がる探偵作家への注目のされ方は真面目な評論家が内容の面白さを提起してのものでは決してなく、レア度の高くなった特定の古書を古本キチガイどもが騒ぎ立てる事に起因するほうが、悲しいかな圧倒的に多いのだ。



それなら「なぜ島田一男のジュブナイルは再発されないの?」と考えるのが物の道理。ところが本書を除くと、今では(もはや論創社ではなく)一番先に行動を起こしそうな盛林堂書房の同人出版においてもそのような話は聞こえてこない。どういう理由で島田一男はここまで注目されないのか、機会があったら近いうちに再びこのBlogでも取り上げてみたい。結果としてこのゆまに書房の復刻版はgood jobだけど、唐沢俊一と元妻の関与は全く余計だった。