2013年7月2日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
論創ミステリ叢書 第64巻
2013年6月発売
★★★★ 今まで光が当たらなかった岡田教授シリーズ
同人「探偵趣味の会」の参加により探偵作家と関わりを持ち、戦後に探偵作家としてデビュー。本格を志向し、岡田郁雄教授シリーズ「Sの悲劇」「二重殺人事件」「貝殻島殺人事件」「蘭園殺人事件」「青髭の密室」(初稿版 + 改稿版)「火山観測所殺人事件」「青酸加里殺人事件」「神の死骸」及び「青酸加里…」の改稿版ノンシリーズ「毒の家族」を発表した。『ぷろふいる』『仮面』『ロック』『妖奇』への掲載が主だったため、これまでイマイチ注目されにくかったのはアンラッキーとしか言いようがない。
ヴァン・ダイン風の味付けで、どの作も発覚
→ 捜査 → 訊問 → 第二の事件 → 解決というフォーマットで展開。戦前は新聞記者だったキャリアのせいか、衒学演出があっても文章自体は読みやすい。解決直前のヒネリもある。ただ説明不足や強引な設定は気になる。探偵役の岡田教授が当初から犯人に目星を付けていたという(古畑任三郎が時々やるアレですね)視点はすごく面白いのだが、なぜ教授が知っていたか、その根拠が時々神の推理だったりする。「Sの悲劇」など異常体質者のフリークスな素材が、カー「曲った蝶番」のように消化されてないのも残念。
海野十三「作為くさい。小細工に過ぎる」角田喜久雄「この枚数には無理な材料である。そのため筋を追うのに精一杯で折角の苦心が浮き上がって来ない」という評もやむをえない。「青髭の密室」「毒の家族」も改稿された意義があまり感じられず、これなら更に新作に挑戦してほしかったところだ。
それ以外はカストリ雑誌にありがちな猟奇犯罪実話八作と随筆十篇。純粋な創作が一冊分に足りないとはいえ、(推理的要素がなくはないものの)本叢書に実話ものまで入れるのってどうなのかなぁ。一度犯罪実話ものの位置付けを明確にする必要があるのでは?
解題の「ジャーナリストとしての第三者的姿勢がくずれてしまう恐れから作家としての筆を断ったものかも知れない」という見方は、新聞記者の頃から〈その世界で知り合った人とはなるべく付き合わないようにしていた〉という水上の矜持を根拠としているらしい。エラい心掛けだし、馴れ合いで染まっている現代のミステリ業界人に、水上の爪の垢でも飲ませてやりたいぐらいだけれども、シーンの中での交流はせずとも探偵小説の執筆だけは続ければよかったのに。
(銀) 山本禾太郎「小笛事件」に甲賀三郎「支倉事件」・・・犯罪実話をベースにした小説で評価されているものも無い訳ではない。戦前の日本では、犯罪実話を突き詰めたら〈本格〉になりうると考えられていた節もあるし。
でも実際のところ犯罪実話ものって、全体のうち九割(いや、もっとか?)はゴミクズみたいな読むに耐えない内容ばかり。仮に実際起きた事件を叩き台にしたとしても、一(いち)からオリジナルのプロットやトリックを築き上げて小説を書くのならいいけれど、ノンフィクション素材にもたれかかっているだけでは優れた発想なんて生まれてくる筈が無い。いろいろ難点はあっても岡田教授シリーズのような純粋な創作小説ばかりだったら★5つにしたかったが、犯罪実話ものが多いので減点デス。