で、第一弾は相変わらず日下三蔵がゴリ押しする山田風太郎。光文社文庫『山田風太郎ミステリー傑作選』の落穂拾いと思っていたが、茨木歓喜ものがあるし巻頭の「黄金密使」は終戦直後の雰囲気もよく書けているし、読者に背負い投げを喰わせる見所もあり、風太郎の味は十分楽しめると思う。
「軟骨人間」の冒頭5行目(58頁)「中西先生が来て変な話をしていってから」のくだり、その前後に中西先生が茨木歓喜と千吉少年にどんな話をしたか記述がないので流れがどうも不自然なのだが、これって初出誌がそうなってるの?
まさか校正ミスじゃないよな?
巻末に編者解説のほかエッセイもあり、本巻の有栖川有栖はなんだかミステリ作家の自己弁護っぽいが、まあ納得できる内容。ジュブナイル本の巻末エッセイというと、本編と全く関係ない輩のしょーもない個人的な思い入れ話で興醒めさせられるものが多くて、いつもイラッとさせられる。本シリーズではそういう事のないよう、編集部にはくれぐれもお願いしたい。
今後は鮎川哲也(全3巻)→ 仁木悦子(全2巻)→ 高木彬光(全7巻)が一応リリースの予定で、それ以外の作家は売れ行き次第らしい。本音を言うと、風太郎を含むこの四人は他社でわりかし刊行に恵まれており、わざわざ論創社がやらなくても・・・・という感がない訳でもない。とはいえ高木彬光の少年ものは長篇も多いし、この四人の中では最も要望が高く売上が期待できるので、四番手でなくもっと早いリリースを乞う。更に言えば、横溝正史の全少年ものをこの形態で出してもらえたら一番嬉しいのだけど。
この少年小説コレクションが探偵小説プロパー読者以外の一般層にどれだけ受け入れられるか、そして論創ミステリ叢書のように発展していくのか、じっくり見守りたい。
(銀) 版元が本の雑誌社から論創社に移っても少年小説コレクションは ❛ 吉 ❜ と出なかった。鮎川哲也の順番が来ても初出誌が揃わない作品があるとかで仁木悦子が二番手に繰り上がったが一冊目の『灰色の手帳』の時から売上がどうにもイマイチだったと聞く。にもかかわらず、予定に無かった三冊目の大井三重子名義童話ものを多数収録した『タワーの下の子どもたち』まで刊行して余程状況が悪くなったのか、それ以降は論創社側がシリーズを「再開する、再開する」と何度も煽ったものの口先だけで鮎川哲也と高木彬光は発売されず、鮎川の少年ものは『鮎川哲也探偵小説選』へと押し込まれてしまった。
私個人は(都筑道夫を含めた)日下三蔵によるラインナップを見て「挿絵付きで読むなら、高木彬光以外はもっと別の作家のほうがよかったな」と内心思っていたけれど、どんな作家でも見境なしに食い付いてくるのがミステリ・マニアの習性ゆえ、こんな風に途中でシリーズが頓挫してしまうとは意外だった。もっとマイナーな作家でさえ論創ミステリ叢書で出しているのに、仁木悦子はどうして版元の期待を裏切るほど売れなかったのだろう? メジャーすぎて需要がほとんど無かったとも思えんし。
強いて思い当たる事と言ったら、2018年に戎光祥出版が〈少年少女奇想ミステリ王国〉というジュブナイル企画を立て『西條八十集 人食いバラ 他三篇』を出したが、たいして盛り上がりもせず一冊のみの刊行でそれ以後何の音沙汰も無い。編者が芦辺拓なのでラノベ・マンガみたいなオタク臭が匂ってくる装幀にされてしまい、これだったら少年小説コレクションの見栄えのほうがはるかに洗練されているのだが、どちらのシリーズも続かないとなると「乱歩や正史ならともかく、世間的には意外とジュブナイル本って売れないのか?」とつい考えてしまう。