2020年8月2日日曜日

『悪魔黙示録/「新青年」一九三八』

2011年8月14日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

光文社文庫 ミステリー文学資料館(編)
2011年8月発売



★★★★★  短くエディットされる前の
         原型版「悪魔黙示録」を一度読んでみたかった




■「猟奇商人」           城昌幸

■「薔薇悪魔の話」         渡辺啓助

■「唄わぬ時計」          大阪圭吉

■「オースチンを襲う」(随筆)   妹尾アキ夫

■「懐かしい人々」(評論)     井上良夫

■「悪魔黙示録について」(随筆)  大下宇陀児

■「悪魔黙示録」          赤沼三郎

■「一週間」            横溝正史

■「永遠の女囚」          木々高太郎

■「蝶と処方箋」          蘭郁二郎

 


日本探偵小説の歴史を断面的に手軽な年鑑っぽく見せる本書は久々の大満足なアンソロジー。
シャーロック・ホームズ/江戸川乱歩のパスティーシュ集みたいなのは、
他社にでもやらせておけばいい。やっぱりミステリー文学資料館の本はDeepでないと。


 

城昌幸・横溝正史・木々高太郎以外は全て入手難な、とても有難いセレクション。
一九三八=昭和13年は日本が中国と戦闘の火蓋を切ったため、時局柄、探偵小説の執筆に暗い影が差し始める年だ。幸いにも本書収録作品から軍靴の音は大きく聞こえてこず、蘭郁二郎「蝶と処方箋」他二作ほど、ごく僅かその気配があるぐらいか。「一週間」の登場人物・日比野史郎はあの中村進治郎がモデルに見える。横溝正史らしい遊びだけど、結末がちょっと気の毒かな。

 


核を成す赤沼三郎短めの長篇「悪魔黙示録」。本書のメインテーマである昭和13年という時期を考えれば、拙いとはいえ謎解き趣味があるのは嬉しい。当初もっと長い尺で書かれていたのに、この作品は編集部の意向で発表時にバッサリ短く刈り込まれてしまった。オリジナル原稿は失われてしまい、赤沼本人もその後改稿する気が起きなかったのは残念。本書には昭和22年の単行本に見られない見取図と地図が載っている。これは初出誌『新青年』、もしくは再録誌『幻影城』にあったものなのか?編者が本書の為に新しく作成したとは思えないし。

 


大下宇陀児が「悪魔黙示録」の紹介文を書いているのは、赤沼三郎が九大の後輩ゆえ。
夢野久作しかり、宇陀児は九州関連探偵作家のプッシュによく手を貸している。
赤沼三郎については『幻の探偵作家を求めて 完全版』に詳しい。
山前譲よ、鮎川哲也のこの超名著のリニューアルは日下三蔵などでなく貴方にやってほしかったのに。

 


戦前・戦後は問わないので、過去のアンソロジーだったり論創ミステリ叢書で手を付けていない作品を、この秀逸なミステリ・クロニクルで続々復活させてほしい。それにしても、都合の悪い事実にはすぐに情報操作・隠蔽工作を図る平成23年の日本は昭和10年代の戦時下と何も変わっていない。




(銀) その後『赤沼三郎探偵小説選』が刊行されたが「悪魔黙示録」は未収録なので、今でもこの本は持っている価値がある。赤沼の戦前戦後の著書を探していると、古書価がいくらに設定されているかはともかく、かもめ書房『悪魔黙示録』よりも日本文學社『怒涛時代』のほうが 市場に出るのが稀のような気がする。


 

かもめ書房の仙花紙本『悪魔黙示録』には、表紙絵が〝目玉ひとつ〟ヴァージョン/〝マスク〟ヴァージョンという異なる二種の装幀が確認されている。同時期の刊行なのに、どういう意図でこんなにコロコロ表紙絵を変えたりしたのだろう?似たような例では高志書房から出された小栗虫太郎仙花紙本『謎の刺青』があって、中身はまるっきり同時期に流通していた高志書房版『屍體七十五歩にて死す』と同じなのに、わざわざ書名を変えて売るという、摩訶不思議な敗戦直後の出版事情よ。