2020年8月24日月曜日

『狩久探偵小説選』狩久

2014年4月11日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

 
論創ミステリ叢書 第44巻
2010年3月発売





★★★★     This Is Not Enough



狩久もまた、これまで著書が『妖しい花粉』『不必要な犯罪』のたった二冊しかなかった。  2010年春に本巻が出た時はかつてアンソロジーの中の彼の短篇を単品で読んだ印象と同様に、 その雑多性がさほど良いとは感じなかった。


 

瀬折研吉・風呂出亜久子の登場作品「見えない足跡」「呼ぶと逃げる犬」「たんぽぽ物語」  「虎よ、虎よ、爛爛と~一〇一番目の密室」。ユーモアを交えた論理物だが、余計な装飾が多い気がする。風呂出亜久子は後の赤川次郎が書きそうな女子大生みたいなライトタッチじゃなくて本来いい女なのだからそこが活きるように描いて欲しかった。元『幻影城』読者だった中高年の自称マニアなおっさん達にはウケの良い「虎よ、虎よ・・・」だが、深夜に虎を連れ歩いて邸に運ぶなんてのは戦前の乱歩の時代とは違うのだからどうもリアリティに欠ける。


 

それに比べると「落石」「氷山」「ひまつぶし」「すとりっぷと・まい・しん」「山女魚」  「佐渡冗話」「恋囚」「訣別~第二のラブレター」「共犯者」はシリアス・タッチと論理がまだ親和している。狩久という人は作品に自分自身をやたらと登場させる。そんな作風を個性として好む読者がいるのはよくわかるが、私にはtoo muchに思える事も多い。特に「訣別」なんかは内輪ネタ過ぎて。


 

しかし―。2013年に篤志家がなんと私家版『狩久全集』(妻・四季桂子全集を含む)全7巻なるものをリリースしたので全ての狩久作品を通読することができ、この作家の最大の美点がやっと掴めたのである。要するに、匂い立つような女の官能を書かせたらもう天下一品なのだ。   本書収録作にもその片鱗はあるけれど氷山の一角に過ぎない。この『狩久全集』はとても豪華で丁寧に作られているのだが、購入窓口が限られており少部数発行かつ超高額で誰でも気軽に入手する訳にはいかないのが問題。


 

本書だけで狩久が判断されてしまう事のないよう、官能的な作品を集成して発売されるのを強く希望する。これまでの論創ミステリ叢書を見ていると、複数巻出す作家の選択がおかしいと思うことがしょっちゅうある。本書はよく売れた方だと聞いた事があるが、                      なぜ狩久の続刊を出さないのか?




(銀) これもねえ、Amazon.co.jpのレビュー欄に投稿した時には★5つにしたけど、    本巻の中で瀬折研吉・風呂出亜久子ものはあんまり好みではない。だから誤解の無いよう★4つに訂正しておく。(この系統の作品を含まないセレクトだったら躊躇うことなく★5つにしていた)


 

もし自分で、日本の探偵小説の〈エロティック・ミステリー集〉みたいなシリーズ本を編纂して一作家一冊出すようなことになったら、その中に狩久は絶対入れるんだがなあ。        アングラな〝性〟の本をバンバン出していたちょっと前の河出なら、こういう企画を商品化してくれるかなと待ってたんだけど、最近はエロ路線やってないみたいで。


 

話題に挙げている『狩久全集』を制作した佐々木重喜ご本人から「2014年暮~2015年を目処に『狩久全集』別巻二冊を出したい」と知らされていたのだが、その後『狩久全集』別巻どころか氏の噂も聞かなくなってしまった。何かあったのだろうか? 本はともかくとして佐々木氏が健在かどうかだけでも知りたいのだけど。