2020年8月22日土曜日

『十三の階段』山田風太郎

2011年9月8日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

出版芸術社 山田風太郎コレクション③
2003年2月発売



★★★★★   『宝石』世代の探偵作家ショーケース



山田風太郎が参加した連作小説コンピレーション。こういった珍品群は、大物でも各自の著書にその書き手の分しか収録されなかったりするので、時が経ち絶版にでもなってしまうと入手が厄介になる。在庫があるうちに買っておきたい。




■「白薔薇殺人事件」 香山滋 → 島田一男 → 山田風太郎 

                    → 楠田匡介 → 岩田賛 → 高木彬光


■「悪霊物語」    江戸川乱歩 → 角田喜久雄 → 山田風太郎

■「生きている影」  角田喜久雄 → 山田風太郎 → 大河内常平

■「十三の階段」   山田風太郎 → 島田一男 → 岡田鯱彦 → 高木彬光


■「怪盗七面相」   島田一男 → 香住春吾 → 三橋一夫 → 高木彬光 

                       武田武彦 →  島久平 →  山田風太郎


■「夜の皇太子」   山田風太郎 → 武田武彦 → 香住春吾 → 山村正夫

                                                               → 香山滋 → 大河内常平 → 高木彬光

 


「十三の階段」で全篇活躍する神津恭介は他にも本書のあちこちに登場するのでお楽しみに。「悪霊物語」では風太郎が明智小五郎・加賀美敬介を登用。「怪盗七面相」には荊木歓喜ら参加作家のお抱え探偵キャラ達が各話に出演(ただ敵役七面相ってのがショボい)。少年もの「夜の皇太子」はなんとか初出誌が揃ったそうで、初の全話単行本収録。


 

連作は雑誌の話題作りが目的ゆえ統一性が無いなどと云われるが、なかなかどうして最初の四篇は緊迫感を楽しめた。アジャパーなんて時代を感じる当時の流行語がお気楽に使われてたりするのも連作ゆえの遊びかしらん。こんなテーマでもやっぱり角田喜久雄は小説が上手いし、風太郎と高木彬光はトップもしくはラストを任される事が多いんだね。いや満喫。痒い処にまで行き届いた、出版芸術社による気の利いた企画だった。


 

でも乱歩、風太郎と連作ものを纏めた単行本があって、なぜ横溝正史のそれは未だにないのか、この辺がよくわからない。



(銀) 出版芸術社は2015年に静山社系列に身売りされたが、原田裕が逝去した今でも事業は継続されていて新刊本も出している様子。だが、原田ほど探偵小説に愛情があるとは思えぬ現在の社長に私が買いたくなるような新刊を出す意向は全く無さそうで、時の流れには逆らえないということか。

 

その出版芸術社が過去にリリースした風太郎本の中で、危惧したとおり本書は流通が無くなっている。風太郎以外の各作家のファンがこぞって買った為にこの巻だけわりと売れた? もしくは出した部数が他の巻より少なかった?