2010年1月7日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
河出ブックス
2009年12月発売
★★★★★ 『ドグラ・マグラ』もSF?
体裁はハンディだが本書の中身は決して軽くない。こういう良書が突如リリースされるから選書は侮れない。SF評論家・長山靖生が同人誌『未来趣味』などへ発表してきた原稿を元に今回書き下ろしたのが、この『日本SF精神史 ~ 幕末・明治から戦後まで』だ。
我国のSF観史を、文化の発展と照合しながら多彩な書誌情報を交えつつ紹介。
明治の黎明期におけるジュール・ヴェルヌ翻訳本の多さに改めて感心する。
押川春浪・海野十三・山中峯太郎らおなじみの面々はもとより賀川豊彦・幸田露伴のように意外な人がSFに関与しているとも。
また昭和に入り探偵小説の時代になると、その中にSFも包含されるとはいえ、小酒井不木博士が『アメージング・ストーリーズ』誌に触発されSF専門誌を発行する計画があったことや、著者が夢野久作の数作をSFと捉えている点が面白い。戦後、江戸川乱歩の本格探偵小説推奨に対し海野十三がキツい一言を物申しているので「二人は対立したのか?」と著者は書いているが、海野は乱歩に心酔していたから、これは単に彼なりの業界への警鐘と見るべきだろう。
日本の探偵小説の中でも防諜スパイ作品の類は幾つかの例外を除くと、敗戦後アンタッチャブルの憂き目を見ていて読むのが全く困難。本書を通読していると、今後そういうものだって新刊本で復活させてもいいのではないかという気になる(変なナショナリズム的意味じゃなく)。日本の闇の部分も歴史の一面であって、意味はあると思うのだけど。
(銀) 河出ブックスというレーベルから刊行された書籍。河出の新書ということで他にも面白そうなものが出るのを楽しみにしていたのだけど、今野真二の本ばかり出すようになり2018年を最後に河出ブックスは刊行ストップしてしまった。
「防諜スパイ小説を復活させても別にいいじゃん」と私は述べているが、この後、論創ミステリ叢書の大阪圭吉や北町一郎の巻でそういった作品が収録されていったものの、頭のカタそうな大手出版社は今でもそれ系の作品を新刊本で出す気配はさらさら無さそうである。