2020年7月4日土曜日

『森下雨村探偵小説選』森下雨村

2009年5月14日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創ミステリ叢書 第33巻
2008年2月発売



★★★★★  「三十九號室の女」「白骨の処女」
           そしてジュブナイル・・・乞う!続巻  


  

名伯楽の異名は伊達ではない。この人のおかげで世に出た探偵小説家のなんと多い事か。それにしては今まで入手できる著書が殆ど無かったから待望の一冊だ。

 

 

初単行本化「呪の仮面」と昭和22年以来の刊行となる「丹那殺人事件」の二長篇、更に探偵小説黄金時代を偲ぶに相応しい評論・随筆集17篇を収録。コリンズ/オップンハイム/フレッチャー/ブッシュなどの翻訳者としても名高い雨村。博文館の主幹として若手の原稿を厳しくチェックしてきた著者ゆえスムーズな文章をもって、怪奇性を抑えたサスペンスフルな作風を見せる。

 

 

ジュブナイルも江戸川乱歩より早く手掛けており佐川春風名義を含め結構な数になる。そのうち古書になるが東郷富士夫少年の活躍する『謎の暗号』(少年倶楽部文庫)は割と見つけやすい。僅かな現行本では『猿猴川に死す』及び『釣りは天国』の釣りエッセイがあるが、春陽文庫のスリラー長編『青斑猫』が良い(挿絵/岩田専太郎)。

 

 

『新青年』編集長時代の雨村は平林たい子のような人にまで「あんたは探偵小説を書いたほうがいいよ」と声をかけていたという。単なる親分肌なだけではなく、シーンを育てようとするマメさも備えていた人。雨村の次男・森下時男による評伝『探偵小説の父 森下雨村』と本書、セットでどうぞ。

  

 

 

(銀) 平成後半に雨村の本が何冊か順調に刊行され、「三十九號室の女」「白骨の処女」そしていくつかのジュブナイルさえも読めるようになった。木々高太郎のように全く復刻の動きが無い作家と比べたらとてもラッキーなほうだ。また本書の出る少し前、2005年には高知県立文学館にて企画展「日本探偵小説の父・森下雨村」が開催され、同名のよく出来た図録も発売された。別役佳代という才女をはじめ関係者の方々に感謝。さらに四国では2008年には徳島県立文学書道館にて企画展「日本SFの父 海野十三」も開催されており、そちらの図録も必携の内容。

 

 

〝ブンガクカン〟とは名ばかりの無知蒙昧な公務員がやっている施設が多い中で、高知県立文学館や徳島県立文学書道館、さらに山梨県立文学館に青森県近代文学館といった立派な刊行物を出しているところは本当に偉いと思うし、地元にお住まいですぐに足を運べる方が羨ましい。

 

 

だいたい私の経験からして展示物や刊行物が立派な施設は、こちらがなにか調べもののリファレンスやコピーの申請といった申し出があると丁寧に応対してくださるし、まったくやる気のないブンガクカンは得てして応対もぞんざいと相場が決まっている。どこでも資金面で経営が大変だろうなと推測されるが、上記のような誠実な文学館には末永く頑張ってほしいと心から願う。